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桃色流星群9
焦っても仕方ないという颯太の提案で、僕らは一旦お風呂用の荷物を自分たちの部屋に置いてきた。ちなみにまだ誰も部屋には帰ってきていなかった。
ただやはり脳の理解と感情は別物で。
どうしようもなく不安を感じる僕に颯太はたくさん「大丈夫だよ」って言ってくれた。
そして風呂の前まで戻り、部屋とは逆方向へ歩き始めた。
綺麗に片付いている廊下に捨てるってことはないだろうけど、一応くまなく見ていく。金属だから多少光るはず……。
「……ない」
「まだ全箇所見てないよ」
「……うん」
「大丈夫、亜樹」
颯太が僕の肩を優しく抱いてさすってくれる。だから必死に涙を堪えた。
廊下を抜け、中庭に面した場所に出る。ふわっと爽やかな空気に包まれ、脳に新しい酸素が取り込まれる。
「あれ? 間宮くんに亜樹くん」
「凛くん……?」
そっと目を閉じてそれを感じていたら、凛くんの声がした。
その出所を探ると、少し廊下を進んだ先に、足湯があった。テニス部の人たちがずらっと足を浸けている。
進む先は結局そちらだったので、凛くんや轟くんのところまで行く。
おのおの様々な話をしていてその場は少しだけざわめいていた。
「二人とも足湯に来たの〜?」
「あ、ううん……」
「テニス部いるってわかってんのに来ないだろ」
「確かに」
轟くんのツッコミに凛くんはへらりと笑う。
いつもならそこで僕も笑顔になるけれど、今日はそんな余裕がない。足湯に浸かることができたら、どんなによかっただろうか。
「あ、そういえばね、さっき面白い人見たんだ」
「……面白い人?」
「そー。中庭に面した廊下を走り抜けていったんだよね。別に走らなくてもいいのに〜」
「顔見た?」
僕が声を出す前に颯太が凛くんに詰め寄る。凛くんは目を丸くして、小さく首を横に振る。
「気づいた時には後ろ姿だったし、そもそも廊下は暗いから」
「……そっか。ありがと」
颯太も僕も顔に落胆を滲ませるのは止められなかった。ある意味今が夜でよかったのかもしれない。
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