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土と緑1

修学旅行も後半に入った三日目。 今日はクラス別の行動だ。僕のクラスは農業体験とマングローブの観察をする。どちらも汚れたりするので今日は一日体操着だ。 収穫を体験させてもらうのは島にんじんらしい。そもそも畑に入ったことがないから、怖さ半分期待半分といった感じ。 いつも通りバスの窓側の席に座って外を眺める。うっすら窓に僕が、その後ろに颯太の横顔が映る。 ワイシャツの上からそっと胸に触れた。 素肌に感じる金属。指輪はちゃんとある。肌から離れていない。 「何してんの」 そうしていると颯太が苦笑して僕の髪をすいた。 「……不安で」 「もう大丈夫だよ」 「うん……」 颯太の手に頭を擦り付ける。 昨日のできごとはどうやら僕の中で深い傷になってしまっていて。こうして身につけていないとまたなくなると不安になってしまう。 そもそも嫌がらせのために捨てたみたいだし……。誰がやったかわかるまでやっぱり不安だ。 「あ、ほら。あれじゃない?」 「……わぁ」 颯太が指差す先を見ると、一面に緑が広がっていた。秩序正しく並んだそれらは、とても綺麗。 思わず窓に張り付いてしまう。 バスは畑の横を過ぎていく。流れていく土や緑は、大自然ゆえの美しさを抱いているのだろう。 バスはそのまま近くの駐車場に停止した。 クラスの全員が列をなしてバスを降りていく。僕も心躍らせてそれに続いた。 「とりあえず班ごとに並べー」 松田先生が降りてきた生徒に向かって声を張り上げる。バスの座席はほぼ班ごとだったからスムーズに並んでいく。 「島にんじんかぁ〜……」 「持って帰ることになったらちゃんと食えよ?」 「え〜……」 学級委員の二人は人数確認に駆り出されている。だから自然と凛くんと轟くんの後ろに並んだ。

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