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土と緑2
「凛くんはにんじん嫌いなの?」
「そう。あの味が嫌い〜」
「渡来、だからってこいつの島にんじん受け取るんじゃないぞ」
「う、受け取らないよ」
凛くんはにんじんが嫌いなんだ、可愛いな〜なんて思っていたら、轟くんの言葉に目を丸くしてしまう。
いくら僕でも友情に絆されてそんなことはしない。
だってにんじんは美味しいし、健康にもいい。凛くんにだってちゃんと食べて欲しい。
「凛も渡来を脅したりすんなよ」
「おどっ……!?」
「たかちゃんのバーカ……」
「凛?」
「なんでもない」
轟くんの迫力ある睨みに凛くんは素知らぬ顔だ。
ふっと笑いが僕とその隣から溢れる。颯太と顔を見合わせて笑った。
些細なやりとりの間に松村くんと清水くんは人数確認を終えたようで、七班のところへと戻ってきた。
「んじゃま、行くぞ。まずは協力してくださる農家さんに挨拶だ」
松田先生の声と共に全員でぞろぞろ歩き出す。といっても先ほどの畑とそれほど距離があるわけではないからすぐについた。
畑の入り口あたりで二人の男女が立っている。
二人とも目元にしわを寄せて微笑ましそうに生徒を眺めている。
「こちらが今回ご協力してくださる阿嘉ご夫婦です」
松田先生の珍しい敬語。
それになんだかくすぐったい気がしながら、クラス全員が挨拶をした。
「今日は皆さんようこそ。これから収穫方法の説明をするのでこちらに寄ってください」
若干の訛りを持ちつつ、わかりやすいよう標準語で話してくれているみたいだ。
旦那さんが畑に入り、生徒たちは半円状に広がって全員が畑を見つめる。
「まず周りの土をスコップで掘っていきます。掘りづらいですが根気よく」
旦那さんが声を上げ、にんじんの周りの土にスコップを突き立てる。言葉通り掘りにくそうだ。
土が硬いのか、粘着質なのか。
「数人がかりでやるのがいいかもしれません」
奥さんも加わって左右からスコップを入れていく。
にんじんの周りの土が徐々に消え、黄色味がかったオレンジ色が見えてくる。
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