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土と緑4

「食うとは限らないんだからやるぞ」 「さっきと言ってること違う〜」 不満げな様子をしつつも二人はスコップを使い始める。 僕も颯太と目を合わせてから掘り出した。 「力任せにやるなって!」 「ちょっとくらい平気だろー!」 「どうなっても知らないからな!」 その最中に隣の隣から声が飛んでくる。もちろん清水くんと松村くんだ。 松村くんは土が空に舞うほど勢いよく掘っていて、清水くんが懸命になだめている。 なんだかんだ楽しそうだ。 それに小さく笑んでから、改めて僕は土に手をつける。 「結構固いね」 「うん……うまく掘れない」 土は固くて重い。一掘り一掘りに結構な力がいる。 固いと言いつつも颯太は軽快に掘っている、ように僕には見える。僕と異なって颯太の隣には土の山が築かれていっている。 伏し目がちににんじんを見て、真剣な様子で土を掘る颯太。 まつげが長いし、髪の毛は染めたとは思えないほど綺麗だし、端正な顔立ちだし。それが僕の恋人、だし……。 「あーき、手」 「へっ?」 「止まってるよ」 「あっ……ごめん」 「だめだよ、俺ばかり見てちゃ」 「……うん」 つい頷くと颯太は甘い甘い笑みを浮かべた。 かっこいい颯太が悪いんだ。 顔はきっと真っ赤になってしまっている。あんなに見つめれば、颯太が気づかないわけないけど、こうして指摘されるとかなり恥ずかしい。 スコップを握る手に力を込めて、無心で土を掘っていく。 横から盛大な溜め息が聞こえた気がしたけど、それは無視する。 唇を噛んで、熱い頬をなだめて。 さっきより力が入る手で、次々土をかきだしていく。そのうちコツも掴めてきて、僕の隣にも土の山ができていく。 七班はそのうち静かになる。慣れてきて黙々と作業をこなすようになった。 皆が一様に真剣に掘っていく。 そうしていれば、島にんじんの胴体がかなり見えてきた。 胴体の三分の二とまではいかずとも、二分の一は超えているはずだ。 凛くんや清水くんたちの方を見ると、同様な感じ。もう引き抜く勢いだ。 他の班からも歓声が上がるのが聞こえる。 すると颯太がスコップを地面に置いた。 「亜樹、抜いてみなよ」 「いいの?」 颯太はちらと自身の腕時計を見る。 「まだ時間あるし、二本目いける」 「わかった。じゃあやってみる」 右手を恐る恐る島にんじんにつける。葉と土の感触と、ほんのり冷ややかな温度。

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