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土と緑5

葉だけ抜かないよう胴体の部分も少し持って、思い切り上へ持ち上げる。 途中まで重たかったが、急に軽くなって。 「わぁ……」 僕の手には太陽の光を受けるにんじんがあった。 間近で見るとにんじんとは思えない細長さが面白い。 「綺麗に抜けたね。折れてない」 「うん、次は颯太が抜いてね」 「俺も亜樹みたいに抜かなきゃ」 颯太がワイシャツに触れずに腕まくりの動作をする。くすくす笑ってしまう。 「うおっしゃー!」 すると突然横から大声が。 当然その声は松村くんだ。立つ必要はないのにすっくと立って長細いにんじんを掲げている。さながら聖剣だ。 七班のメンバーだけではなく、他のクラスメイトも何事かと松村くんを見ている。でもその様子を見て、呆れたように自分の作業に戻っていた。 僕の抜いたのと比べると、松村くんの方が長い。声をあげたくなる気持ちはわかるかも。 「見ろよ! 長いだろオレの!」 またしゃがんで今度は僕たちに見せてくる。 「松村くん」 「なっ……! くそう!」 すると凛くんが目を細めて松村くんに島にんじんを見せる。それは松村くんのよりも更に長い。 松村くんは歯を食いしばって拳を握る。 周りからは笑い声が上がる。 そのあとはちょっと移動してまた土を掘った。今度は班でお喋りしながらだったから時間がかかった。 二本目を収穫したところでちょうど時間がきて。どの班も大体一人一本だったらしい。 生徒が収穫した島にんじんは阿嘉夫婦に渡した。収穫のささやかな手伝いといったところ。 そしてそのお礼とばかりに島にんじんのしりしりを食べさせてくれた。どうやら僕たちが体験している間に作ってくれたらしい。 それはすごく美味しくて、笑顔が止まらなかった。 ちなみに凛くんはちょこっと食べただけ。あとは轟くんが食べてあげていた。あんな厳しいことを言いつつ、凛くんには甘い轟くん。やっぱり好きなんだなって伝わってきた。 にんじんしりしりを食べ終えたら、阿嘉夫婦にきちんとお礼をして、またバスに乗った。 次に目指すのはマングローブ林。

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