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愛はガラス1

バスから降りると徒歩でマングローブ林まで向かった。空き地から段々背の高い草木へと変わっていく。 そこを歩いていけば川辺が見えた。 そこには案内人の人一人と、人数分のライフジャケット、それからずらりと並んだカヌー。 案内人の人の紹介やら説明やらがあって、ライフジャケットを着込んで、早速カヌーに乗ることになった。 事前に二人組は決めておいたので皆スムーズにカヌーに向かう。 もちろん僕は颯太とペアだ。 「亜樹が前乗りなよ」 「えっ……でも、大丈夫かな……」 「俺が亜樹の背中を見たいだけなんだ」 前は少し不安。颯太の姿が見えないし。 でも颯太がふにゃりと笑う。その笑顔にすごく胸がきゅんと締め付けられる。肌に触れる指輪が熱を持った気がした。 「……うん。わかった」 「ありがと」 カヌーに左足、右足と乗り込む。そしてゆっくり座り、パドルを手に取る。 中は狭いし、パドルは思ったより重たい。ちゃんと漕げるだろうか。 僕が落ち着くと同時に後ろ側が揺れる感覚がした。 「このまま川に入るなんて不安だね」 「でもすぐ慣れるって言ってたから平気だよ」 「うん……」 僕の視線は川に沿って生えるマングローブへ。颯太の視線は、きっと僕の背中へ。 「このまま川に入ってみてください!」 案内人の人が大声を上げる。 僕と颯太は「せーの」と声をかけて、パドルで地面を押す。 ずるずるカヌーが地面を擦り、先が水についた。 「わっ……あ、すごい」 「浮いたね」 「ね。沈まない」 そこからはするっと水に入れた。カヌー全体が水に触れる。確かに不安定だけど、沈みもしなければ、傾きもしない。 パドルをそっと水につけてみる。後ろからの声に合わせて滑らすと、すっと前に進むカヌー。 ほんの少しの動きでも感動で息が漏れる。

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