442 / 961

Respective ways 1

○ ● ○ 『暫く会えないと思う』 『ああ。受験なんだよな』 『……連絡も、減るだろう』 『仕方ねーな』 『……』 『待っててやるよ』 最後の日、誠也はそう言って、笑った。 --- 鉄製のドアを叩く。軽く叩いても相変わらず大きな音が出る玄関。 すぐにドアが開いた。 それもそうだ。何故なら僕は珍しく事前に連絡を入れていたのだから。 会うのが久しぶりで血迷ったのかもしれない。受験の報告のために浮かれていたのかもしれない。 「おー柊。……元気してたか?」 「ああ」 目の前には懐かしくも思える誠也の姿。全然変わっていない。金髪も逞しい体つきも、何もかも。 まあ数ヶ月で大きく変化する方がおかしいか。 「入れよ」 そう言って誠也は僕より先に家に引っ込む。 その瞬間、軽い違和感を感じた。 何かはわからない。そもそも実際には気づかない程度。あとから思い返せば感じられるようなものだ。しかしそれもそれで久々に会ったからと考えてしまう。 だからこの時の僕は当然気づかなかった。 僕と知り合ってからある程度整頓されるようになったキッチンの横を抜ける。僕が来なかった間もそれは続いていたみたいだ。 皿も溜まっていなければ、ゴミもきちんと分別されている。 多少感心しつつ部屋に入る。誠也はベッドを背もたれに座っていた。その隣に並ぶ。 そのあとに続くのは、沈黙。 久しぶりに会った。最後に会ったのはおそらく十二月だ。 たかが二ヶ月かもしれない。けれど、長かった。 それは誠也も変わらない、と思う。だがならなぜ何も言わないのだろう。 こういう時に真っ先に話しだすのは誠也だ。 「……元気にしてたか」 「ああ。さっきおれが聞いたな」 「煩い」 仕方なく自分から声をかければ案の定失敗する。 当然、羞恥と怒りが浮かぶ。

ともだちにシェアしよう!