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Respective ways 2

「……柊の煩いを聞くのも久しぶりだな」 「二ヶ月は経っているからな」 「そうだな」 誠也はどこか遠い目をしていて、話題を広げる余裕がないみたいだ。 いや、僕の声や言葉をただ耳に入れて、浸透するのを待っている、というか。僕との時間を惜しんでいるようにも見えた。 訳がわからない。 僕がここへ来たということは受験は終わったと考えるのが普通だ。 誠也のことだから受験の結果を聞いて、まるで自分のことのように喜んでくれると思っていた。 確かに多少の寂しさはある。なぜなら進学によって僕はここから離れるのだから。 しかし僕はそれ以上に久々に会えることに、言いたくはないが、嬉しさを感じていて。少しでも一緒の時を過ごしたいと思って。 そもそも僕の志望校を知らない誠也に引っかかる理由はないはずだ。 「……大学、受かったぞ」 「おお。おめでと」 「推薦だから多少早めに自由になった」 「やっぱすげぇな、柊は」 わからない。 誠也が静かな理由も。こちらをちっとも見ない理由も。 これではいつもと逆だ。 それに軽い言い合いさえも今日は無理そうな雰囲気。 しかしこれ以上何も言うことがなくなってしまった。もともと世間話などできる人間ではない。 手持ち無沙汰で座ったままでいる。 隣の誠也は不意にスマホを使い始める。指先が数回動いたあと、ピタリと動きを止める。 画面を見つめる瞳は悩ましげに揺れる。それから珍しく、恐らく僕といる時に初めて、深刻そうな溜め息を小さく吐いた。 その様子にますます僕は困惑する。 どうしたというのだ、本当にこいつは。 スマホを普段からあまり使う人間でも、呆れ以外の溜め息を吐く人間でもない。なのによりにもよってスマホを見て溜め息。 しかし聞くのも憚られるのは当然。 だからこそ僕は脳を回転させた。こちらの方面には全く疎いが。

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