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Respective ways 3

視線だけで隣をうかがう。誠也は依然としてスマホを見ていた。 その指はゆっくり下から上に動く。流石に画面を覗くようなことはしないが、どうやら何かのメッセージを読んでいることはわかる。 ……そうか。わかった。 それを見てすぐ繋がった。つまりは女だ。 いや、女でなくてもいい。だがとにかく誠也に新しい想い人、もしくは恋人ができたのだろう。二ヶ月間全く連絡を取っていなかったのだから仕方ない。 だがこいつはこう見えて真面目で優しい面もある。だから言い出せないのだろう。 「誠也」 「ん?」 「別れよう」 誠也が言いにくいなら、僕が言ってやればいい。別に僕は縋り付くようなタイプではない。相手の枷にはならない。 「……は?」 誠也の声は喉の奥から絞り出したような小さなものだった。 スマホの画面がプツッと真っ暗になる。 「じゃあな」 「てめっ……! いきなりどうしたんだよ!」 「それがお互いのためってことだ」 慌てる誠也を背に、僕はまっすぐ玄関に向かう。 つくづく幸福というのは一瞬で終わるみたいだ。少しの間離れただけで僕の元から去っていく。 初めて手に入れて、暫くの間は大丈夫だと思っていた。誠也は僕を捨てたりしないと、どこかで安心してしまっていたんだ。 『待っててやるよ』 この言葉を、信じていたんだ。 僕にそんな価値はなかったというのに。 「待てよ、柊!」 振り返ることなく玄関に行こうとした僕の腕を誠也が掴む。ただでさえ力が強いくせに、今日はそれ以上。 かなり、痛い。 「どうしてそんなこと言うんだよ」 「だからお互いのためだ」 地を這うような低い誠也の声。これは明らかな怒りを含んでいる。なぜ、だろう。 「お前、まさかおれが嫌になったか」 「……っ」 しかし次に来た言葉で僕の脳は酷く揺さぶられる。 なぜ、そうなる。 僕を捨てるのはお前じゃないか。僕は、僕は、お前を思って、離れて。一方的に拒絶されても、僕は、お前を。 僕は、本当は、 目の前が霞みかけたそのとき。 「ああ。そうかよ」 誠也はそう吐き捨てた。

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