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Respective ways 5

「言い訳したって事実は変わんねーから簡潔に言う」 普段から考えられないほど誠也の声は真面目だった。誠也が悩む姿や躊躇う姿など見たことがなかった。 誠也は一回唾を飲み込むと静かに口を開いた。 「……転勤になった」 「…………なに」 「何度確認しても、この事実は変わらなくてよ」 その言葉に唇が震える。 誠也も同じだったということ、だ。 別れへの意識より今会えること。 今会えることより別れへの意識。 見る方向が異なるのは年齢の違いか。 「だから柄にもなく、」 「どこだ」 「なに?」 「どこに、転勤なんだ」 だがとにかく聞かなければならないのは、これ。小さな可能性を、求めて。 「あー、遠いぞ? 関西だよ」 もう悩むことをやめたのか溜め息と共に誠也はぼやく。 その瞬間、馬鹿みたいに心臓が高鳴った。 「僕の行く大学、どこにあるかわかるか」 「そういや聞いてなかったな、志望校」 「……関西、に、ある」 枕の隙間から声を漏らす。誠也の動きが止まる。 部屋には煙が漂うだけ。 「……本当かよ」 「嘘をつく必要がどこにある」 「それもそうか」 じゅっという音が聞こえた。そしてその刹那、無理やり体を反転させられた。 視界に入るのは何とも言えない表情の誠也。 泣きそう。嬉しそう。怒っていそう。 そのどれもが当てはまる。 「てめぇ、最初から言っとけよ」 眉間にしわが寄った顔。いつもの誠也。 僕は鼻で笑う。 「聞かれていないからな」 「ああそうだな。聞かなきゃ言わねーやつだわ、柊は」 「馬鹿め」 「てめぇもな」 どちらからともなく笑みを浮かべ、自然と唇が重なった。

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