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Respective ways 8
「柊は大学進学で家を出ます。俺も転勤で同じ地方に越します。そこで一緒に住むことを認めてほしいです」
「好きにすればいい。こいつが何をしようと我々には関係ない」
父は一瞬のためらいもなくそう言った。
これくらい予想通りだ。寧ろ誠也との関係を止められなくてよかった。
「そんな子、もう久我の人間失格のようなものですからね。あなた」
「そうだな」
そして母の言葉に父は頷く。母はそれから誠也に目を向けた。
「誠也さんだったかしら? 一緒に住むくらいならだいぶその子を気に入ってるみたいね。ならどこへでも連れて行ってちょうだい。そんな子、久我にはもう必要ありませんから」
「……そうですか」
母の冷たい言葉と、父の首肯。いつものこと。夕食の席でよく聞く流れ。
誠也は両親の態度に笑顔で答えた。眉間に全くシワのない綺麗な、綺麗な笑顔だった。
「認めてくださってありがとうございます。では失礼します」
そして誠也はあっさり身を翻した。部屋を出る恋人に僕も続いた。
廊下に使用人はいなかった。帰るときは好きにしろということらしい。
どっちにしろこの家からすぐ出ていくだけだから構わない。
そう思って視線を誠也に向ける。目を逸らした一瞬の隙に誠也は廊下の先に行ってしまっている。
かなり大股で歩いているから、僕は小走りで追いかけた。
まっすぐ進んでいく誠也の後ろを歩く。
どこか怒りを孕んだような様子だ。両親にあまりに嫌われる僕をみっともないとでも思ったのだろうか。両親の態度に怒りを現さないなら、その可能性が高いのかもしれない。
いずれにせよ捨てられないならそれでいい。傍にいてくれるなら、それで。
「おい、柊」
「なんだ」
しかし誠也は急にその足を止める。危なくぶつかるところだった。
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