450 / 961

Respective ways 9

「パスポートすぐ取ってこれるか」 「……なに?」 「今からカナダ行くぞ」 「なぜだ」 誠也は本当に何を考えているのだろうか。 困惑する僕に誠也は苛ついた表情を向けた。 「婚約しに行くんだよ」 「…………は?」 当たり前だというように吐かれた言葉。 当然僕の思考は停止する。 カナダに行く。そこで婚約。 確かにカナダは国籍を持たずとも、同性での婚約をさせてくれると聞いたことがある。 だがなぜいきなりそんなことを言い出すのか。 僕が絶句していると誠也は更に眉間にシワを寄せる。 「村本柊になんの嫌なのかよ」 「いや、そうではなく……」 村本柊。 その響きは脳に甘さを注ぐ。 だがその幸福に浸る間も無く、誠也が次の言葉を放つ。 「じゃあなんだよ」 「僕はいいが、誠也はどうするんだ。仕事があるだろう」 「んなの休む」 「いや、待て。ちょっと来い」 完全に誠也は我を失っている。仕事を休むなど、軽々しく言うべきではない。 再会初日もそうだったが、今もかなり怒っているようだ。 こんな状態だと話どころではない。そもそも久我の家でする話でもない。 誠也の腕を引いて僕は歩き出した。

ともだちにシェアしよう!