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Respective ways 9
「パスポートすぐ取ってこれるか」
「……なに?」
「今からカナダ行くぞ」
「なぜだ」
誠也は本当に何を考えているのだろうか。
困惑する僕に誠也は苛ついた表情を向けた。
「婚約しに行くんだよ」
「…………は?」
当たり前だというように吐かれた言葉。
当然僕の思考は停止する。
カナダに行く。そこで婚約。
確かにカナダは国籍を持たずとも、同性での婚約をさせてくれると聞いたことがある。
だがなぜいきなりそんなことを言い出すのか。
僕が絶句していると誠也は更に眉間にシワを寄せる。
「村本柊になんの嫌なのかよ」
「いや、そうではなく……」
村本柊。
その響きは脳に甘さを注ぐ。
だがその幸福に浸る間も無く、誠也が次の言葉を放つ。
「じゃあなんだよ」
「僕はいいが、誠也はどうするんだ。仕事があるだろう」
「んなの休む」
「いや、待て。ちょっと来い」
完全に誠也は我を失っている。仕事を休むなど、軽々しく言うべきではない。
再会初日もそうだったが、今もかなり怒っているようだ。
こんな状態だと話どころではない。そもそも久我の家でする話でもない。
誠也の腕を引いて僕は歩き出した。
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