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With memories 1
「なんでおれはこんなところにいるんだ」
横にいる誠也がぼやく。
今、僕と誠也の前にはまたも門が広がる。
今度は九条の門。
同棲の準備を徐々に進めつつ、合格の報告を颯太や俊憲さんにもしていった。
俊憲さんから暮らしの質問が来て、隠すこともないから恋人と暮らすと告げた。そして今の状況だ。
「なぜ今はそんなに緊張しているんだ」
「いやー……九条グループのトップってのもあるし、何よりこっちの方が親への挨拶みてぇじゃねぇか」
「別に反対はされていないから平気だ」
「わかってっけど……」
「行くぞ」
この間とまるで逆だ。僕は誠也の緊張なんか構わず門内に踏み入れる。
今日は颯太と亜樹も来るらしい。どうせ卒業式の日にも会うだろうが、祝いは早ければ早いほどいいらしい。
相変わらず久我より広い敷地。前庭を突っ切って玄関まで辿り着く。
誠也も流石に心を決めたのか、もう真面目な顔つきになっている。ちなみに今日も黒髪姿だ。
僕が手を伸ばしてインターホンを押す。
「柊さま、誠也さま、ようこそ」
すぐさま開いた扉の向こうに恭しい執事の姿。手荷物を受け取ろうとするのを制止して、執事を先行させる。
「手慣れてんな」
「五年は住んでいたからな」
こそこそ普段の口調で話しかける誠也に僕も同じように返す。
執事は気づかず進んでいく。
どうやら方向的に向かっているのは食堂のようだ。やはり緊張させない配慮をしてくれている。こういう時にも俊憲さんの変化に驚かされる。もう半年は経つというのに。
他より大きめの扉の前に辿り着く。執事は整然と扉をノックした。
「お連れいたしました」
「入れてくれ」
「かしこまりました」
執事の手がドアノブにかかる。隣の誠也は息を飲む。僕は指先を誠也のに触れ合わせる。
そして開かれる扉。
「よく来てくれた、村本誠也くん」
薄く微笑む俊憲さん。その横で柔らかく笑う明恵さん。更にその横で、意味ありげに視線を送る颯太。なぜかかなり緊張した様子の亜樹。
そんな四人が僕らを出迎えた。
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