456 / 961

With memories 1

「なんでおれはこんなところにいるんだ」 横にいる誠也がぼやく。 今、僕と誠也の前にはまたも門が広がる。 今度は九条の門。 同棲の準備を徐々に進めつつ、合格の報告を颯太や俊憲さんにもしていった。 俊憲さんから暮らしの質問が来て、隠すこともないから恋人と暮らすと告げた。そして今の状況だ。 「なぜ今はそんなに緊張しているんだ」 「いやー……九条グループのトップってのもあるし、何よりこっちの方が親への挨拶みてぇじゃねぇか」 「別に反対はされていないから平気だ」 「わかってっけど……」 「行くぞ」 この間とまるで逆だ。僕は誠也の緊張なんか構わず門内に踏み入れる。 今日は颯太と亜樹も来るらしい。どうせ卒業式の日にも会うだろうが、祝いは早ければ早いほどいいらしい。 相変わらず久我より広い敷地。前庭を突っ切って玄関まで辿り着く。 誠也も流石に心を決めたのか、もう真面目な顔つきになっている。ちなみに今日も黒髪姿だ。 僕が手を伸ばしてインターホンを押す。 「柊さま、誠也さま、ようこそ」 すぐさま開いた扉の向こうに恭しい執事の姿。手荷物を受け取ろうとするのを制止して、執事を先行させる。 「手慣れてんな」 「五年は住んでいたからな」 こそこそ普段の口調で話しかける誠也に僕も同じように返す。 執事は気づかず進んでいく。 どうやら方向的に向かっているのは食堂のようだ。やはり緊張させない配慮をしてくれている。こういう時にも俊憲さんの変化に驚かされる。もう半年は経つというのに。 他より大きめの扉の前に辿り着く。執事は整然と扉をノックした。 「お連れいたしました」 「入れてくれ」 「かしこまりました」 執事の手がドアノブにかかる。隣の誠也は息を飲む。僕は指先を誠也のに触れ合わせる。 そして開かれる扉。 「よく来てくれた、村本誠也くん」 薄く微笑む俊憲さん。その横で柔らかく笑う明恵さん。更にその横で、意味ありげに視線を送る颯太。なぜかかなり緊張した様子の亜樹。 そんな四人が僕らを出迎えた。

ともだちにシェアしよう!