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With memories 6
薄暗くなり始めた空の下、僕と誠也は歩いていく。冬は本当に日が落ちるのが早い。
「あー……肩凝った」
誠也がぼやいて肩をぐるぐる回す。
「そんなにきつい雰囲気ではなかっただろう」
「そうかもしんねーけど、気は遣うだろ」
「確かにそうだな」
クスッと笑みが漏れる。
俊憲さんは終始和やかな雰囲気だった。僕や颯太など彼に慣れている人物にとってはなんらきつい状況ではないのだろう。
だが誠也は結婚相手の親の前にいるようなもの。
ただ誠也はそれを感じさせない態度ではあった。丁寧な口調で、にこやかに、冷静に、相対していた。それは純粋に凄いと思う。
金髪の男がそう喋っているのは笑いを催す部分もあったが。
ふと視線を感じて隣を見る。誠也がなぜかこちらを不思議そうに見ている。
「なんだ」
「柊、嬉しそうだな」
「は?」
僕が眉間にしわを寄せると誠也は片方の口角を上げる。
「可愛いねぇ、餓鬼は」
「お前は阿呆か」
ポンポンと頭を撫でてくる手を振り払ってやる。
僕がいつ嬉しそうにしたと言うんだ。別に、嬉しくないわけでは、ないけれど。
無論そんなこと口に出すわけはないので、僕は誠也より一歩前に出る。
「そういや卒業式もうすぐか?」
しかし誠也はなんでもないというようにあっさり追いつく。
「ああ。三月の最初の月曜だ」
「見に行きてー」
「来るな。そもそも無理だろう」
「まあそれもそうだけどよ」
おそらく、いや絶対に僕の両親は出席しないだろう。だからといって誠也に来て欲しいはずはない。
別にいいんだ。
誠也は僕のために様々なことをしてくれて、いつでも支えてくれる。
それで、十分。それが、幸せ。
「てかそしたら柊春休みだろ?」
「そうだな」
「じゃあおれの都合ですぐ会えるな」
「僕に何も予定がないと思うな」
「でもおれを優先するんだろ?」
「……煩い」
にやにや笑う顔から視線を逸らす。そしてまた一歩、二歩、先に行く。
誠也はすぐに隣に並んで僕の手を取る。
繋いだ手は夜空に溶けていった。
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