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With memories 7

春の匂いが微かに漂い始めた空気の中、ゆっくり足を進めていく。 卒業式で僕のやることは特になかった。答辞はセンター前に合格した者が担当していたため、ただ座って様々な言葉を聞き、時には立ってさめざめとした歌を歌っただけ。 教室に戻ってからも、担任へのサプライズ等を済ませ、クラスメイトの言葉や誘いを受け。学校用の笑顔を振りまいてからそれなりのところで去った。 颯太と亜樹が中庭で待っているのだ。 どこの教室も部活のお別れ会で埋まっているため、仕様のない選択といったところ。 「九条会長!!」 そうして中庭に続く渡り廊下に出た時だ。背後から複数の足音が駆けてくる。 声と人数で誰かはすぐにわかる。フッと笑みが浮かんだ。 振り返る。 「僕はもう会長ではない」 「俺たちにとってはずっと会長です」 生徒会で一緒だった一、二年の生徒が僕の前に並んだ。そして真ん中の一人が一歩前へ出た。 「会長、ご卒業おめでとうございます」 その言葉に続いて、後ろの生徒も口々に祝いの言葉を述べる。そして現会長から花束を渡された。 引退の時にも似たようなことをしたというのに、わざわざまた用意してくれたらしい。 「ありがとう」 笑顔を向ければ、向かいでは唇を噛む。 「会長、本当にいなくなっちゃうんですよね……」 「ああ。もう卒業したからな」 「そうですよね……いなくなっちゃうんですよね……」 俯いていたり、拳を作っていたり、歯を食いしばっていたり。皆が皆、それぞれ悲しみを表している。 特に現会長は不安もにじませている。 腕の花束を持ち直す。かぐわしい匂いがふわっと立ちのぼった。 「不安がることはない。皆、よくやれている」 「……でも、でも俺……会長みたいになれる自信ないです……」 「何も僕の真似をする必要はなかろう。自分たちらしい形を築けばいい」 「はい……」 「大丈夫だ。それに、送辞は立派なものだった」 念押しに一言付け足せば、現会長の顔に笑顔が広がっていく。 僕も僕で昔よりは自然な笑みを向けられていると思う。 「はい!」 元気な返事に頷く。 そしてふと視線を横にずらす。中庭のベンチに颯太と亜樹の姿が見えた。 「自信を持ってやっていけばいい」 「ありがとうございます」 「では待ち合わせをしているから」 「はい。さようなら」 「ああ」 頭を下げる下級生を背に、僕は身を翻した。

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