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With memories 8

「柊先輩……!」 靴に履き替え亜樹と颯太の元へ行く。先に気づいた亜樹がパッと顔に花を咲かせた。 「卒業おめでとうございます」 「卒業おめでとう、柊」 「ありがとう」 二人は立ち上がって僕に笑顔を向けてくれる。 そしてふと視線を下げる亜樹。そこで初めて僕の持つ花束に意識がいったみたいだ。 その顔がみるみる青くなる。 「やっぱり……、颯太、ほら」 「いや、平気だって」 「でもっ……」 「どうした」 慌てる亜樹と平然とする颯太。何を亜樹はそんなに気にしているのか。 「亜樹が祝いの品を用意した方がいいんじゃって言ってたんだ。でも結局思いつかなくて。俺はもう品を送らずともいいかなって思って割り切ったけど」 「で、でもやっぱり貰ってるみたいだし、ごめんなさい……」 「なんだそんなことか。言葉だけでも祝いの気持ちは伝わるぞ」 「でも……」 「そう気に病むな」 それにお前たちにはもう既に多くのものを貰った。だからもう十分だ。 こんな言葉、墓場まで持っていくことは確実。 「ほら、言ったでしょ」 「颯太は柊先輩に対してどこか雑だよ……」 「んー、そう?」 「そう!」 胸の内でひとりごちていれば、二人の言い合いが始まる。 最初の頃のどこか互いに遠慮していた様子とはもう大違いだ。こういう関係になれたことは素直に喜ばしいし、そう思える自分になったことも、どこか喜ばしい。 思わずふっと笑みが漏れた。 「……柊先輩……」 「亜樹?」 するとそれに気づいた亜樹がなぜか泣きそうな顔になる。 「……先輩の笑顔が、すごく自然で……なんか、今までのこと思い出したっていうか……」 「ああ。酷いことも、協力も、様々したな」 「それに……これから遠く行っちゃうんだな……って……」 ぽろりと亜樹の瞳から涙が落ちる。亜樹の肩を颯太が抱いた。 負の感情は無理やり押し込めていた過去の亜樹に比べれば、こうやって悲しめるのはいいことだ。だが何も僕のためなんかに泣かずともいい。やはり亜樹はどこまでも優しい人間だ。

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