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迷いは喧騒の中1

アトラクションは二列ずつのものだったけれど、この時ばかりは恋人同士で隣になった。でも降りたら結局、先の二人組。 余程二人は気があったらしい。 「すっかり仲がいいですね、あの二人」 「恋人を放って何をという感じだがな」 「まあ、確かに」 ちらりと背後に視線を送る。 何を熱心に話しているのかはわからないけれど、二人とも笑顔で楽しそうだ。 「亜樹は気にならないのか」 「二人が楽しそうだし、それでいいかなって」 「……そういうものか」 「だって僕は、」 柊先輩の濡羽色の瞳が僕を見ている。僕の瞳も柊先輩に向かっている。 指先が無意識に丸くなる。薬指の指輪が冷ややかだ。 「……僕は、颯太と一緒にいれますから」 「同学年だからな」 「それに柊先輩だって同棲するんですから、これから嫌でもずっと一緒ですよ」 ふふって柊先輩に笑いかけてみる。柊先輩もぎこちなく笑って、それから視線を前方に向けた。 「……確かに、いくらうざくても一緒だな」 「一緒にいられることは、大事です」 恋人と同棲できる、なんて羨ましい。ずっと一緒にいれることの証みたいだ。 僕も颯太とほぼ同棲みたいなのかもしれないけど、互いの家に行かない日だってあるから。 「柊〜」 会話がちょうど止まった時、村本さんが柊先輩の横に並ぶ。颯太も僕の隣に来た。二人とも会話が相当楽しかったのか、上機嫌な様子。 「なんだ」 「いや……てか、どうした?」 「だから何がだ」 「不機嫌じゃね?」 並んでいるから二人の声はよく聞こえる。だから村本さんの言葉に驚いてしまう。 柊先輩は基本的にあまり感情を出さない人なのに、流石恋人ということなんだろう。一瞬で柊先輩の感情を見抜いてしまうなんて。 というか柊先輩は不機嫌だったのか。 「そんなことはない」 「どうしたんだよ」 「不機嫌ではない。これが普通だろう」 「いーや、おれにはわかるぜ。なんてたって」 柊先輩が不機嫌なのはよくあることなのか、村本さんは特に気にせず笑顔で接する。 しかし。 「ーー煩い!」 その場に響く怒声。

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