472 / 961
迷いは喧騒の中1
アトラクションは二列ずつのものだったけれど、この時ばかりは恋人同士で隣になった。でも降りたら結局、先の二人組。
余程二人は気があったらしい。
「すっかり仲がいいですね、あの二人」
「恋人を放って何をという感じだがな」
「まあ、確かに」
ちらりと背後に視線を送る。
何を熱心に話しているのかはわからないけれど、二人とも笑顔で楽しそうだ。
「亜樹は気にならないのか」
「二人が楽しそうだし、それでいいかなって」
「……そういうものか」
「だって僕は、」
柊先輩の濡羽色の瞳が僕を見ている。僕の瞳も柊先輩に向かっている。
指先が無意識に丸くなる。薬指の指輪が冷ややかだ。
「……僕は、颯太と一緒にいれますから」
「同学年だからな」
「それに柊先輩だって同棲するんですから、これから嫌でもずっと一緒ですよ」
ふふって柊先輩に笑いかけてみる。柊先輩もぎこちなく笑って、それから視線を前方に向けた。
「……確かに、いくらうざくても一緒だな」
「一緒にいられることは、大事です」
恋人と同棲できる、なんて羨ましい。ずっと一緒にいれることの証みたいだ。
僕も颯太とほぼ同棲みたいなのかもしれないけど、互いの家に行かない日だってあるから。
「柊〜」
会話がちょうど止まった時、村本さんが柊先輩の横に並ぶ。颯太も僕の隣に来た。二人とも会話が相当楽しかったのか、上機嫌な様子。
「なんだ」
「いや……てか、どうした?」
「だから何がだ」
「不機嫌じゃね?」
並んでいるから二人の声はよく聞こえる。だから村本さんの言葉に驚いてしまう。
柊先輩は基本的にあまり感情を出さない人なのに、流石恋人ということなんだろう。一瞬で柊先輩の感情を見抜いてしまうなんて。
というか柊先輩は不機嫌だったのか。
「そんなことはない」
「どうしたんだよ」
「不機嫌ではない。これが普通だろう」
「いーや、おれにはわかるぜ。なんてたって」
柊先輩が不機嫌なのはよくあることなのか、村本さんは特に気にせず笑顔で接する。
しかし。
「ーー煩い!」
その場に響く怒声。
ともだちにシェアしよう!