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迷いは喧騒の中3
トイレに行きたいのは事実だったから、僕と柊先輩はまだ歩き続けている。
といっても僕は柊先輩についていっているだけだけど。
「……見つからないな」
しかし柊先輩は足を止め、ぽつりと呟いた。
「明確な行き先があったんじゃないんですか?」
「いや、歩いていれば見つかるだろうと思った」
「あっ、でも地図。地図見ましょうよ」
「現在地がどこだかもわからない」
慌ててパンフレットを開いた僕に襲い来る衝撃。
案外柊先輩は適当なんだと知ると同時に、焦りも込み上げてくる。
だってこれは確実に、迷子、じゃないか。
テーマパークはかなり広いから全貌を把握するなんてもってのほか。柊先輩にただついてきた僕には、通ってきた道すら記憶にない。先ほど颯太たちといた場所さえもよく覚えていない。
とりあえず迷子なことを知らせなければとスマホを取り出す。
「柊先輩……!?」
迷子になった旨を送ったところで柊先輩を見れば、また歩き出してしまっている。
見失ってはならないとそれきりスマホをしまって追いかけた。
「とりあえず歩き続ければ見つかるだろう」
「だ、大丈夫ですかね……」
「きっと地図看板もある」
「そう、ですね……」
柊先輩の迷いのない言葉に僕も元気が出てくる。
とりあえず今はトイレを探すことが先決だ。数も多いだろうからすぐ見つかるはず。
それから現在地を特定して、もしくは颯太たちのいるところを聞いて、合流すればいい。
いくら広いといっても囲われた空間ではあるから、会えないわけではない。
老若男女様々な声の中を進んでいく。
アトラクションに並ぶ列だったり、売店だったり、明るい声だったり、やはり楽しさが満ち溢れた空間だ。
そうして歩き続けていると、薄暗い場所に差し掛かった。
洞窟をテーマにした区域、だろうか。岩壁を模した壁に囲まれた空間だ。
「あ、柊先輩。あれじゃないですか」
「ああ。やっと見つかったな」
途中の曲がり角にはアトラクションに続く道があって、更にその奥にトイレの看板が見えた。
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