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迷いは喧騒の中4
トイレを済ませて外に出る。
まずは明るい場所に出て、それから颯太と連絡を取ろう。
「そういえば柊先輩はスマホ……」
「ねぇ〜君たち」
持ってますか、と続けることは叶わなかった。嫌な予感しかさせない声が、背後から聞こえたから。
条件反射で振り向こうとした僕の腕を掴んで、柊先輩は歩き出す。
「待って、待って。君たちだよ!」
しかしあっさり追いつかれて進路を塞がれてしまった。
相手は四人の男の人。みんながみんな背が高くて、怖い。薄ら笑いを浮かべた表情にも恐怖が走る。
「オレたちと一緒に回らない?」
「断る」
「つれないなぁ〜。二人より大勢の方が楽しいよ?」
「他を当たれ」
柊先輩はさりげなく僕を背で隠してくれる。僕は極力、柊先輩に近寄らせてもらった。
この人たちの目的は明らか。でも柊先輩は臆することもなくはっきり声を出してくれるから、かなり安心できた。
だけど柊先輩の冷たい言葉に、男らはますます笑みを深めた。
「クールな君も、そっちの怯えてる君も、可愛いね。二人とも食べちゃいたいよ」
「君たち、恋人同士に見えなくもないけど、やっぱり二人とも男に抱かれてるでしょ?」
「美人さんもかわい子ちゃんもどこか色気あるもんねぇ〜」
「んで、このラッキーな出会いを逃したくないの。ほら、一緒に行こ?」
「離せ、汚らしい」
四人が次々喋って僕はますます怖くなる。
しかもとうとう四人のうち一人が柊先輩に腕を伸ばした。手首を掴まれた柊先輩は気分悪そうに腕を引く。だがどうやら振りほどけないみたいだ。
軽口を言う人たちとはいえ、力はそこそこあるみたい。
柊先輩は軽く息を吐いた。
「わかった。僕が一緒に行ってやる。だからこの子は見逃せ」
「へ〜、身を呈して守ってあげるんだ」
「せ、せんぱ……」
振りほどくのを諦めた柊先輩は静かにそう告げた。
怖い。怖いけど、それだけはだめ。僕を守るために柊先輩が酷いことされるなんて、いや。
柊先輩を止めようとした瞬間、ぐいっと腕を引っ張られた。
「ひっ……!」
「でもぉ、おれはこの子が目当てなんだ。ごめんねぇ〜」
「やっ……」
「可愛い、可愛い」
背中側から抱きしめられて、男の指先が鎖骨から顎まで辿る。それに合わせて悪寒が体を駆け巡った。
腰に回る腕がいやらしく動き始めて、どうしようもなく震えが走る。
恐怖に目を見開く僕と、柊先輩の視線が絡んだ。それからすぐに柊先輩は男らを睨む。
「ふざけるな。その子を離せ」
「だめだよ。ていうか君さ、さっきから口悪いよねぇ。何様のつもり?」
リーダー格の男が一歩前に出る。柊先輩との身長差は歴然だ。柊先輩がとても小さく見える。
その男が柊先輩に手を伸ばし、
「何様なのはてめーだ」
その手を、誰かに掴まれた。
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