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ハシバミ観覧車1
「どこ行くの?」
迷いなく村本さんについて行くあたり、颯太はどうやら行き先を知っているらしい。
「んー、秘密」
颯太は僕を見て楽しそうに笑んだ。
これは絶対に教えてくれないやつだ。歩いていけばわかることだから構わないけど。
また何か言い合っている柊先輩と村本さんの後をのんびりつける。
まだまだパーク内は混み合っていた。夕焼けに染まる人々の間を抜けていくと。
「ほら、ここだよ」
「あ……」
目の前に明るく輝く観覧車が現れた。
まだあたりは明るいというのに、夜を先取りして色鮮やかにライトアップしている。それはまるで颯太と見たイルミネーションのようだ。
柊先輩と村本さんはさっさと二人で先に乗り込む。
一方で煌めきに見惚れてしまった僕だが、颯太に促されて二人で乗り込んだ。
係員が扉を閉めるバタンッという音。
そして二人きりの空間に包まれた。
僕は窓に張り付いて地面が離れていくのを眺める。
歩く人々がどんどん小さくなって、様々なアトラクションの全貌が見え始めて。
「亜樹」
颯太の声に振り返ると、優しい微笑みで自分の座席の隣を叩いていた。
僕は黙ってそこへいく。そして隣ではなく、颯太の膝に乗った。
ぎゅっと背中に腕を回す。
颯太は、遠くなっていかない。
「何にもされなかった?」
「……うん」
「でも怖かったよね。ごめんね」
「……淋しかった」
確かに知らない人に抱きしめられたのは怖かった。あんなの慣れるわけもないし。でもそれ以上に、淋しかったんだ。
柊先輩の前では強がってしまったけど、本当は隣にいてほしかった。
「……颯太、村本さんとばかり」
「うん。ごめん」
僕も柊先輩と話していてそうだったように、颯太だって同じ側の人と話すのは楽しかったと思う。それはわかっている。
でもやっぱりいつも一緒がいいって、思ってしまう自分がいて。
そんな自分が、恐ろしくもあって。
「俺も亜樹と一緒がいいよ」
「……うん」
そっと視線だけ持ち上げれば、颯太の指が僕の顎を持ち上げる。
そして唇が重なった。
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