478 / 961

ハシバミ観覧車2

○ ● ○ 乗り込んだ観覧車。 対面に腰かける柊。 しんと静まる空気。 「柊、こっち来いよ」 「……いや、いい」 柊に声をかけてもそっけない言葉を返される。 こいつの場合、どう話し出せばいいのかわからないだけだろう。勉強はおれより何倍もできるくせに、人との関わりはものすごく下手なやつだ。 今回は自分が悪いと理解してるからこそ、余計に。 そして今回ばかりはおれにもこいつがなぜ苛立っていたのか理解できない。元から人の心の機微なんてわかる人間ではないから、無理もない話。 だがここで、なら放っておけとならないあたり、おれは昔より成長したと思う。こんなの柊だけとはいえ。 「ならおれがそっち行くわ」 「く、来るなっ……」 あー可愛い、可愛い。 来て欲しくないけど、来て欲しい。そんな困惑が見て取れるから可愛くて仕方ない。 そもそも柊なら、照れているのも苛々して冷たくしてくるのも、全て可愛い。我ながら重症だ。こんな餓鬼によくここまで惚れたものだ。 柊の言葉を無視して隣に腰かける。 柊は壁とおれの腕に囲まれる。 極力壁に近寄って顔を逸らすから、おれはますます近寄ってやった。 「近い」 「何を怒ってたんだよ」 「……それは」 鼻が触れそうなほどの近距離で囁く。柊は決まり悪そうに唇を噛んだ。 緊張のせいか、夕日のせいか、薄く頬は赤らみ、長い睫毛は扇情的に伏せられている。 「柊」 「んっ……!」 そんな様子を見たら、キスをせずにいられない。 逃げる柊の顎を捕らえ、深く深く口付ける。奥に引っ込んだ舌を絡め、引っ張り、温かい感触を感じる。 柊の体はぴくぴくと震え、徐々に舌が従順になる。その様が可愛くて仕方ない。

ともだちにシェアしよう!