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ハシバミ観覧車3
「……んぅっ」
胸を押されてやっと柊を離す。はぁっと息を吐き出すと額をおれの肩に乗せてきた。腕はおれの胸に置いて、指先をきゅっと丸める。
それからすんと肩口の匂いを嗅いで、緩くおでこを擦り付けた。
ふざけるなと言いたいほど可愛い。
胸にすっぽり収まる恋人をそっと抱いてやる。
「……悪かった」
直後に聞こえてくる小さな声。
艶のある黒髪を撫でる。
「……自分に苛ついただけなんだ」
撫でれば柊の体からは力が抜ける。対して掌には力が入る。
「颯太とばかり話すのを見て、胸のあたりが締め付けられた……。でも、亜樹は颯太が楽しそうならいいと……だから、自分が醜く思えた……」
柊の息が首筋に感じられる。熱っぽく、緩く震えた吐息。
柊の素直な告白を聞いておれは今すぐ次の行動に移りたくて仕方ないが、まだ続きそうなので堪える。
「恋人を束縛する権利はないのにな」
最後にぽつりと呟いて柊は口を閉じる。
元から柊は自分を悪く見がちだが、今回も今回でそうみたいだ。でもまさかこんなことでこうまで自分を追い詰めるとは。
素直に喜ぶのもどこか羞恥が湧くし、どうしたらよいかわからず溜め息がこぼれてしまう。すると柊は体を強張らせる。
「あーほんとお前さ、可愛すぎ」
だからその体を強く抱きしめる。
「……なに」
「そんなのただのヤキモチじゃねーか」
「……は?」
「おれが颯太とばっかいるから、嫉妬したんだろ」
ヤキモチも知らないなんて、柊は恋愛に関して無知すぎる。嫉妬という言葉自体は知ってるくせに、なぜ自分にも当てはまると考えないのだろう。
まあそのおかげでこうして素直に話してくれたわけだが。
「……しかし、亜樹は」
それでも柊の声には羞恥ではなく困惑がにじむ。
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