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ハシバミ観覧車4

「まあ……亜樹は柊と比べたら恋愛に関してよっぽど経験値高いからな。ちょっとくらい我慢できんだろ」 「……そう、か」 「もしくは強がったか、じゃねーの」 「……ああ」 柊の体の強張りは解けない。手はやはりきゅっと握りしめられて、額は更に肩に強く押しつけられる。 そんな動作に思わず顔がにやついてしまう。 「柊、顔見せてみろよ」 「断る」 「ヤキモチ可愛いな」 「……っ、煩い」 せめてもの抵抗とばかりにおれの服を微かに引っ張るところすらも可愛い。 どうせ顔を赤くしているのだろうし、こういう時はいつも口が回らない。それも可愛い。 まあ、素直に話してくれただけでも今日は頑張った方だろう。 これ以上いじめるのも可哀想だから、大人しく柊を抱きしめたまま顔を上げる。 「……お、ちょうど頂点だ。夕日綺麗だぞ」 「…………」 おれが外を見てると油断した柊が顔を上げる。そして振り向きかけたその顔を止めて、キスを落としてやった。 「……!!」 目の前には見開かれた双眸。 「なっ……騙したな!」 「いって! 綺麗なのは事実だっての!」 唇を離したら、甘い空気。 ……にするには、羞恥が溜まりすぎていたらしい。思い切り体を突き放されてしまう。 おれはあえなく背中から床に倒れる。 照れて、照れて、照れた末に出る暴力は、可愛いとはいえ痛い。本当に手癖の悪い姫様だ。 「こっち来るな」 「何もしねーよ」 「煩い。来るな」 おれが起き上がった瞬間にはもうすっかりいつもの柊だ。 腕と足を組んで、そっぽを向いてしまう。 もうこれ以上、機嫌を損ねるのも得策ではないからおれは向かいに座る。 「……夕日、綺麗だな」 しかしおれが目を逸らした瞬間に落ちる爆弾。 正直言って柊の顔を見たいし、何がどうなってそんなにデレたのかも気になる。 「ああ、だろ」 だが懸命に窓の外を見て、口角を上げた。 橙色の光は柔らかくおれと柊を包み込んだ。

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