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ハシバミ観覧車6
「あ、そうだ。柊」
一人嬉しく思っていると、颯太が唐突に柊先輩を呼ぶ。柊先輩が振り返る。
颯太は今度、手招きをしてもっと近寄るよう支持する。柊先輩の顔が心なしか顰められる。でも大人しく従ってくれるあたり、優しい。
「なんだ」
「俺と話している時、村本さんがね、誠也さんって呼ぶのは柊に悪いからやめてくれって言ってたよ」
「……は?」
こそっと颯太が告げた事実に、柊先輩の表情は更に険しくなった。
その様子に颯太はいたずらが成功した子供のように笑う。
「それだけ」
最後にニコッと笑って颯太は柊先輩の背中を押して、村本さんの隣に戻す。
「何言われたんだ?」
「な、なんでもないっ……」
「なんだよ、言えって」
「煩い……!」
村本さんに詰め寄られて柊先輩は懸命に顔をそらす。ちらりと見える耳が赤くて、嬉しかったんだなってはっきりわかってしまう。
でも確かに自分だけに下の名前を呼ばせてくれるのは、嬉しいよね。
僕だって颯太って呼んでるのは殆ど僕だけの事実は嬉しい。
「柊も村本さん関連だと慌ててくれて面白い」
「颯太って人のことからかうの好きだよね」
「楽しくて」
笑みと溜め息が同時に漏れる。
こういうところ、颯太って子供っぽい。まあ、実際子供だし、僕はそのおかげで少し安心する面もあるから、全然いいのだけど。
「でも亜樹の反応が一番可愛いよ」
「……そういうのいらない」
「嬉しいくせに」
極めつけにひっそり告げてくるところは、ちょっと必要ないと思う。
……ううん、嬉しい。
颯太が好きすぎて、何でも認めてしまう。
子供っぽいところだって、妖艶なところだって、優しいところだって、かっこいいところだって、頼もしいところだって、全部、全部、好き。
そんな颯太とずっと一緒がいいな。
なんて暗い空に願った日。
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