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新しい季節の始まりは1
桜の花びらがひらひらと舞う。掌をさしだしてみると、ちょうど一枚上に乗った。
「すごい。なんかいいことありそうだね」
「うん……」
「大丈夫だって、亜樹〜」
でも今の僕にはこの麗らかな季節を喜ぶ余裕はない。とにかく心配だった。
颯太と一緒のクラスになれるかどうかが。
今日は新学期初日。つまりクラス発表の日だ。
「……でも万が一ってあるから」
「学力順なんだから平気だよ」
「うん……」
あくまで学力順だけど、志望校も関わっていそうだから不安だ。
颯太と志望校の話はしない。そもそも颯太の学力なら、聞かずとも明白。だから颯太は僕が志望校を下げたことを知らないわけで。
でも自分から言うはずもないから、僕一人でクラス分離の不安を抱いてしまっている。
「ほーら」
「……颯太」
颯太は困ったように笑って僕を抱きしめた。
「もし別のクラスになってもいっぱい会いに行ってあげるから。だから、大丈夫」
「……うん」
優しく背中をさすられて、颯太の心音を聴く。伝わってくる体温は徐々に僕の身体に沁みていく。
颯太の言葉一つで安心して、ついでに自分を誤魔化して。僕はとても狡い人間だ。でもこれが人間なのかもしれない。
「はい。じゃあ行こっか」
「うん」
颯太は頭にキスをして、僕の体を離した。そして歩みを再開する。
久しぶりの通学路。
程なくして同じ制服の人たちが増えてくる。紺のネクタイか赤のリボンにブレザー。始業式のため、みんながみんな正装だ。
「清水くんたちと同じクラスかな」
「だろうね。小室くんたちとも一緒だよ」
「そしたら楽しそうだなぁ……」
小さな会話をしながら下駄箱まで行く。
とにかく平和に過ごせればいいんだ。
そう思いつつ上履きに手をかける。
「いたっ……」
けれどそう上手くはいかないようで。
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