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新しい季節の始まりは2
「どうしたの?」
「なんか刺さった……」
上履きに入れた指先を出すと、少し血が出ている。僕が上履きを持ち上げようとしたら、颯太がすかさず先に取った。
「……これ」
ぺりっと踵の部分から剥がされたのは、2つの画鋲。
随分古典的な悪戯だ。
颯太はその画鋲をポケットにしまう。それから僕に手を差し出した。
「指出して」
「あ、うん」
鞄から絆創膏を取り出すと、人差し指と中指に貼ってくれた。
「誰がこんなこと……」
颯太の顔は随分険しい。
凛くんや轟くんに凄んだときみたいだ。今にも誰かを殴りそうな、まるで不良のような雰囲気。
でも怖くはなくて、ただちょっとかっこいいなって思ってしまう。
不謹慎かもしれない。颯太は僕のために怒ってくれているのに。
というかそもそもなんでこんな悪戯をされたのだろう。誰かに恨まれるような行動をした覚えは……
あれ、この思考、前も、した?
ハッと顔を上げる。颯太と視線が絡む。
「指輪の人」
「かもしれない」
言葉にすると妙にしっくりくる。きっと同一人物だ。目的は全くわからないけれど。
隣で颯太がはーっと息を吐いた。そして思い出したように上履きを差し出す。安全になったそれに足を入れる。
「誰だよ、俺の亜樹に」
少し乱れた口調に、ごく自然に出た言葉。
頬が染まって自然と微笑んでしまう。
「何笑ってるの」
「はなひて〜」
すると颯太がじとっと僕を睨んで、指で頬を挟んでくる。何回かむにゅむにゅされ、2人同時に吹き出した。
「ははっ、亜樹変な顔」
「もう、颯太のせいでしょ」
そうやってひとしきり笑って、それから颯太が僕の頭に手を置く。
「まあ、何かあっても俺がいるから」
「……うんっ」
胸がほわって温かくなったのは言うまでもない。
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