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新しい季節の始まりは3
教室のつくと颯太は自分の席に座らず、真っ先に僕の席を覗いた。
「うーん……こっちは何もないな……」
「颯太……僕、自分で確認できるよ?」
「だーめ。何かあったら危険でしょ」
「でも颯太が危ないよ」
「俺はいいの」
颯太はそう言って自分の席に座る。僕はそんな恋人に一歩詰め寄った。
「よくないもん」
「俺は亜樹が傷つくのが嫌」
「僕は颯太が傷つくのが嫌だ」
こんなこと話しても埒があかない。
でも守られてばっかは嫌だし、やめるって決めた。それはこんな些細な出来事においても変わらない。
「亜樹く〜ん、久しぶり、おはよう〜」
「はよ。どうした。夫婦喧嘩か?」
「あっ……凛くん、轟くん」
いつものように間延びした声と年相応の声。僕らの机のところにきた二人を見て、とりあえず席に座った。
落ち着いて話さなきゃどうにもならないや。
「亜樹に嫌がらせする人がいるんだ」
「あ〜……もしかして修学旅行の時の?」
「そう。多分同一人物」
「でもそれでなんで喧嘩してんだ?」
ふと放たれた轟くんの言葉。僕と颯太は目を合わせて、僕は颯太を軽くつついた。ちょっと唇を尖らせて。
颯太はぽりぽりと頬を掻く。
「俺が亜樹の行く場に危険がないか確認して……それで亜樹は守られてばっかはいやだーって。でも俺も亜樹が傷つくのは嫌だって、それの繰り返し」
颯太がポツリポツリと言っていく。凛くんはそのうちにやにやしだして、轟くんは呆れた笑みを浮かべる。
「ただの痴話喧嘩か」
「んね〜」
そして二人は顔を見合わせてそんなことを言う。
すごく恥ずかしいし、なんか……なんか、悔しい。
「まあ、間宮がやりすぎないようにすればいんじゃね?」
「そーそー。二人とも気をつけてればいいの」
「……うん」
「努力はする」
颯太がさらっと言った言葉に、僕はムッと隣を見る。
「颯太〜」
「ごめん、ごめん」
するとまた始まったと呆れ顔を向けられてしまう。
だけどその時ちょうど教室のドアが開いた。
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