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新しい季節の始まりは5

「あー疲れた」 クラス別ホームルーム、そして集会を終え。それで今日は放課だ。 颯太がんーっと伸びをする。 颯太と歩む廊下は、柔らかな日差しが眩しかった。 たぶんこのあとは入学式。そう考えるとふさわしい天気か。 「……もう三年、なんだね」 もう入学式の時期だ。もう三年だ。 感慨深いような、寂しいような、恐ろしいような。 「んねー……あっという間に過ぎて、それぞれ旅立つのかな」 「うん……。受験、頑張らなきゃね」 「だね。……って、あ!俺、職員室行かなきゃなんだ!」 颯太が腕時計を確認して声をあげる。ちょうど今、玄関についたから、一階にある職員室は近い。 「ちょっと待ってて」 「うん。ここにいるね」 下駄箱の前に立って颯太を見送る。 他の人より早めに出てきたから、まだ玄関周辺は静かだ。ちょうどお昼時で、鳥のさえずりなんかが外から聞こえてくる。 こんな長閑な時間だと悪いことも全て忘れてしまいそうだ。恐怖も、迷いも、不安も、全て。 なんとなく深呼吸して、下駄箱に背を預ける。すっと目を閉じる。 「……あの!」 しかし、それは長く続かなかった。 だってどう考えても今の言葉は僕に向けられたものだ。 目を開く。 目に入ったのは、真新しい制服を着た、男の子。明るくて、好青年そうな、見た目。 「……あ、もしかして」 その姿に見覚えがあった。 近寄ってきた男の子は、僕の言葉にパッと顔を明るくする。 「覚えててくれたんですか!」 「杏ちゃんのお兄さん……だよね?」 「そうです! あの時は杏が失礼しました」 「ううん。全然そんな」 なんだろう。僕はこの兄妹と縁があるのだろうか。 偶然が重なりすぎて驚いてしまう。 「改めてまして、俺、仁って言います」 「あっ、僕は亜樹です」 キラキラの笑顔で挨拶をされて、僕も思わず敬語になってしまう。仁くんは僕の名前を聞いて更にキラキラを増した。 「よろしくお願いします……! 亜樹先輩!」 「……っ」 胸に、来た。

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