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新しい季節の始まりは6
亜樹先輩。先輩。
先輩という、響き。
まさか僕が先輩と呼ばれる日が、来ようとは。
「俺、亜樹先輩に再会できるなんて思ってませんでしたよ!すごい偶然ですね!」
「あっ……ああ。うん。僕も驚いた」
仁くんは僕の手を取ってぎゅっと握る。その顔はキラキラ嬉しそうで、見てるこっちも嬉しくなる。
何より帰宅部の僕が先輩と呼ばれたことに、かなり気分が高揚している。
人生で初めてだ。先輩と呼ばれることなんて。下の名前と先輩って、本当に、よい、響き。
「亜樹先輩は何年生ですか?」
「僕は三年だよ。ちなみに一組」
「そうなんですね!」
先輩と呼ばれただけで、途端仁くんがとても可愛い後輩に見える。
僕より身長は高いけど、瞳を輝かせて質問してくる様子はまるで犬みたいだ。すごく可愛い。
満面の笑顔が見た目より幼く見せているのかもしれない。初めて会った時はもっとクールな感じだったから、大人っぽく見えたし。
今の方が年相応で僕は好きだけど。
「仁くんは今日、入学式で合ってる……よね?」
「はい。今日からここの生徒です」
またニコッとして仁くんは快活に言う。そして僕の手を離して時計を見た。
その瞬間、ハッと目を見開く。
「ごめんなさい!時間やばい!」
「えっ!大丈夫?」
「はい!まだなんとか!亜樹先輩、ごめんなさい、また!」
「うん……!ばいばい!」
最後の最後まで笑顔を見せて仁くんは駆け足で去っていった。
主に笑顔だけど、それでも表情がころころ変わって可愛い子だなって思う。今まで可愛いを言われる側だったのに、可愛いって思える相手ができて嬉しい。
校内は広い。でも限りはあるんだから、きっとまた会う時も来るだろう。その時が楽しみだ。
「亜樹、お待たせ」
「あ、颯太!」
ちょうど颯太が戻ってくる。その姿を見て、僕の心はまた高揚して。
仁くんと話してる時とは別の高揚。
誰もいないからってぎゅっと颯太に抱きついてみる。
「亜樹? どうしたの〜」
「待ってた〜」
「もう可愛いなぁ。そういうのは家でやってよ」
ふわふわと撫でてもらえる頭が心地いい。
颯太もいて、新しく仁くんと知り合えて、うん、やっぱりいいスタートだ。
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