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聞こえぬ足音3

どうやら犯人は入念に仕掛ける時間がなければ何もしないみたいだ。だから昼休みまで無事に過ごす。 僕の元気もだいぶ回復した。 「あーきー……」 「だめだよ、颯太」 颯太がだらーっと抱きついてくる。僕は苦笑して押し返す。 「委員会、行きたくない……」 「でも行かなきゃでしょ?」 「……うんー……」 「ほら、時間」 颯太は運の悪いことに活動の多い委員会になってしまった。じゃんけんが無念な結果だったのだ。 僕は颯太の体を無理やり起こして立ち上がる。手を差し伸べると、颯太は不満そうにしつつも手を取った。 教室のドアまで見送ってあげる。 左右に手を振ると、名残惜しそうに笑う颯太が可愛かった。 背中が見えなくなってから教室に戻る。 颯太はいない。清水くんや凛くんたちもいない。つまり特にすることはなくて。 なら図書室で勉強でもするか。 教材を持って、改めて教室のドアを潜った。 図書室は一階の端にある静かな空間。落ち着く雰囲気が好き。 たんたんと音を立てながら階段を降りていく。三年の教室は二階だからすぐに終わって、図書室のある方向に曲がろうとする。 「亜樹先輩!」 すると僕にかかる声。 「あっ、仁くん」 にかっと変わらず輝く笑顔の仁くんが僕に駆け寄ってきた。 やっぱり自分を見て笑顔になってくれるのは嬉しい。しかも先輩、先輩って懐いてくれているし。 「亜樹先輩、どこ行くんですか?」 「図書室だよ。仁くんは?」 仁くんはちらっと教材に目を向ける。 「偶然ですね!俺も図書室に行こうとしてたんです。一緒に行きましょう?」 「うん。いいよ」 仁くんと一緒に歩き出す。 入学してから二日目で図書室に行くなんて、仁くんは意外に読書家なのかもしれない。ただ運動好きな少年だと思っていた。少し嬉しい。

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