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聞こえぬ足音4

「亜樹先輩ってよく本読みます?」 「けっこう読むほうだと思う。最近はあまり読めてないけど」 「じゃあ、おすすめの本ってありますか?」 「僕の? うーん、好きな本ならあるよ」 「教えてくださいっ……!」 「いいよ」 「やった!!」 仁くんはガッとガッツポーズを決める。 テストですごくいい点とったんじゃないかってくらい大きな反応だ。 ニコニコしていたかと思えば、僕の反応を心配そうに伺って、またふわっと笑って、本当にコロコロ表情が変わって可愛い。 それに大きな身振りや反応は微笑ましい。 ……って、完全に先輩面だ。 その時ちょうど図書室につく。仁くんはドアを開けて僕を先に通してくれる。 可愛いかと思えば、紳士なんだ。 「どこらへんですかね?」 「たぶんこっちかな……」 声を潜めつつ、国文学のコーナーに行く。 少し時代を遡るくらいの本が僕は好きだ。繰り返し記号が多様されていたり、漢字が多く使われている時代のとか。 「俺、こういう系統はあんま読んだことがないです……」 「そうなんだ」 「はい。どこから手をつけていいかわからないっていうか……」 「あーわかるかも」 指で背表紙を辿っていく。下から二段目だから腰を屈めないと見ることができない。 そもそも並べ方が乱雑で見つけにくい。 作者をあいうえお順にしてくれたらわか…… 「あっ……!」 「え?」 「ぶなっ……」 仁くんの焦った声と、何かを掴む音。

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