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聞こえぬ足音6

ちゃりん。 空き瓶に吸い込まれた画鋲が音を立てる。もうそこそこの数が溜まっていた。 「毎日毎日、根気強いなぁ……」 「慣れてきちゃったね」 新学期が始まってから早一週間。『誰か』は飽きもせず上履きに画鋲を入れ続けていた。 虫の日から机の中にはごみが入っていたり、はたまた何もなかったりという具合。本の時みたいなことも起こらない。継続しているのは画鋲だけ。 瓶を鞄にしまって歩き出す。 「犯人は全く姿を現さないね」 「それに目的もわからないからどうすればいいのやらって……」 「逆に不気味だ」 二人で何度も考えたけど、本当に何も思い浮かばなかった。 普通なら僕が嫌いという理由。でも悲しいかな、恨まれるほどの人付き合いはない。僕のことを好きな人間という案も出たけれど、それなら颯太が気づくと。 そしていつもここで止まってしまう。 僕、颯太の順で教室のドアを潜る。 「用心、しかないねぇ……」 「そうだね。亜樹、気をつけてね」 「はーい」 どさっとリュックを机に置く。 「一時間目なんだっけ?」 「英表かな」 「あーじゃあ辞書」 席のすぐ後ろにあるロッカーを覗く。辞書は重たいからいつも学校に置いていっている。そもそも家にはスペアがあるし。 資料集や問題集の並びを追う。 「あれ……?」 机に戻って中を覗く。 当然空だ。何か入っていた時に汚されるから。 「どうしたの?」 「辞書がない……」 「もしかして」 僕のことをよく知っている颯太だから、すぐに嫌がらせに結びつける。僕にもそうとしか思えなかった。物の管理を怠ったことはない。 それに物を奪う、捨てる、ってのはいじめの定番だ。 定番繋がりでゴミ箱を見に行ってみる。でも中にはなかった。

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