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聞こえぬ足音7
「あ、渡来」
「清水くん、松村くん、おはよう」
すると二人がドアから入ってくる。
語調からしてまるで僕を探していたみたいだ。
「これもしかして渡来の?」
「え?」
案の定、清水くんは問うてくる。渡されたのはボロボロになった辞書。汚れているし、よれているし、破れている。
「朝連中に校庭で見かけたんだよな〜」
「そう。んで気になって拾った」
「……うん。僕の、みたい」
表紙を一枚めくったところに、僕の名前が掠れて見える。パラパラめくると、マークしてある単語は見覚えのあるものばかり。
とりあえず席に向かう。
「嫌がらせ、だっけ?」
「そう……。ありがとう、拾ってくれて」
「ああ。それは全然」
自分の机にリュックを置いた清水くんと松村くんは僕について席までやってくる。
「清水くんに松村くん、おはよう」
「間宮、おはよ」
「はよー」
「それで亜樹、あった?」
「二人が校庭で拾ってくれた」
颯太に無残な辞書を見せる。颯太は顔をしかめてページをめくった。
「画鋲とごみだけだって言ってなかった?」
「うん……これは初めて」
「なーんか悪化してるよな」
「だな。明日からも見ておく」
「ありがと……」
辞書は買い直さなければならないだろう。そもそもロッカーを空にして、毎日重たい荷物を持って登校しなくちゃかもしれない。
溜め息を吐いて椅子に座る。清水くんと松村くんは心配そうに僕を見る。
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