496 / 961

聞こえぬ足音7

「亜樹く〜ん」 「あっ……凛くん、轟くん」 「これ亜樹くんの?」 「え? また……?」 今度は凛くんと轟くんが登校してくる。手渡されたのはびしょ濡れのノート。表紙の名前が滲んでいるけれど、確かに僕の名前だ。 「トイレの便器にあったんだよね〜」 「てかまたって?」 「ああ……うん」 机の辞書を指す。二人ともすぐに察して、苦い表情になった。 なんだろ、一気にきた……。 慣れてきたとはいえ、画鋲だってごみだって嫌に決まっている。それに加えて今度は物だなんて。 辞書はもうだめだし、ノートは乾かしても読めるかどうかわからない状態だし。 辛い。そんな感情が、ぴったり。 「亜樹……」 「颯太、どうしよう……」 「亜樹だけは俺が絶対守るから。辞書は暫くの間俺の使おっか。ノートは取ってないから無理だけど……」 「ん……」 颯太が僕の近くまで椅子を引きずって、優しく抱き寄せてくれる。みんなの前だけど、でも、我慢できなかった。 それに状況が状況だから、誰も何も言わない。 「亜樹くん、ノートはだめそうならおれの写しなよ」 「凛はノートだけは綺麗だからな」 「だけって何、たかちゃん」 凛くんと轟くんがニッと笑う。 「犯人探しするか!」 「茂には無理だろ」 「んなことねーよ! 頑張るし!」 「どう頑張るんだよ。まあ俺も探してみるけど」 松村くんがやる気の炎を瞳に宿し、清水くんは呆れたように話す。 自然と笑みがこぼれていた。 みんな、みんな、優しい。 ずっと憧れていた人の繋がりって、こんな温かいんだ。 だからきっと、大丈夫。こんなに味方は、いる。 なら、嫌がらせなんかに、負けない。 「よかったね、亜樹」 「……うん」 颯太の小声に小さく頷いた。

ともだちにシェアしよう!