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聞こえぬ足音7
「亜樹く〜ん」
「あっ……凛くん、轟くん」
「これ亜樹くんの?」
「え? また……?」
今度は凛くんと轟くんが登校してくる。手渡されたのはびしょ濡れのノート。表紙の名前が滲んでいるけれど、確かに僕の名前だ。
「トイレの便器にあったんだよね〜」
「てかまたって?」
「ああ……うん」
机の辞書を指す。二人ともすぐに察して、苦い表情になった。
なんだろ、一気にきた……。
慣れてきたとはいえ、画鋲だってごみだって嫌に決まっている。それに加えて今度は物だなんて。
辞書はもうだめだし、ノートは乾かしても読めるかどうかわからない状態だし。
辛い。そんな感情が、ぴったり。
「亜樹……」
「颯太、どうしよう……」
「亜樹だけは俺が絶対守るから。辞書は暫くの間俺の使おっか。ノートは取ってないから無理だけど……」
「ん……」
颯太が僕の近くまで椅子を引きずって、優しく抱き寄せてくれる。みんなの前だけど、でも、我慢できなかった。
それに状況が状況だから、誰も何も言わない。
「亜樹くん、ノートはだめそうならおれの写しなよ」
「凛はノートだけは綺麗だからな」
「だけって何、たかちゃん」
凛くんと轟くんがニッと笑う。
「犯人探しするか!」
「茂には無理だろ」
「んなことねーよ! 頑張るし!」
「どう頑張るんだよ。まあ俺も探してみるけど」
松村くんがやる気の炎を瞳に宿し、清水くんは呆れたように話す。
自然と笑みがこぼれていた。
みんな、みんな、優しい。
ずっと憧れていた人の繋がりって、こんな温かいんだ。
だからきっと、大丈夫。こんなに味方は、いる。
なら、嫌がらせなんかに、負けない。
「よかったね、亜樹」
「……うん」
颯太の小声に小さく頷いた。
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