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聞こえぬ足音9
「重た……」
両手に持ったゴミ袋を持ち直す。
教室のゴミだからすごく重い。ゴミ捨てじゃんけんに負けてしまうなんて不運だ。
校庭の横を抜けてゴミ捨て場に向かっていく。
ゴミ捨て場が外なのはまだ許せるけれど、敷地内の端というのは困る。もう少し玄関の近くに作ってくれてもよかったのに。
嘆いても仕方ないから早く捨てて、早く颯太の所に行こう。
「亜樹先輩!」
「ん? あ、仁くん」
気を取り直して歩き出そうとしたところ、校庭から仁くんが駆け寄ってきた。学校指定のジャージを着ている。
背後にサッカー部の人が見えるから部活中かもしれない。
「こんにちは!」
「久しぶり。もう部活入ったの?」
「いや、いま体験させてもらってます」
「積極的だね」
「へへ〜」
照れ臭そうに笑ってから、仁くんは僕のゴミ袋を一つ取る。さりげないもので、止める間もなかった。
「ちょ、仁くん?」
「ゴミ捨て、行きましょ?」
「でも部活……」
「休憩中なんで!」
爽やかに微笑んだ仁くんは僕の背を押す。
「ありがとう」
「いえ全然!」
好意を無下にするのも悪いし、正直腕が辛かったから甘えてしまった。もうどちらが先輩なのか……。
ちらりと隣の仁くんを見る。緩く口角を上げていた。
そもそも顔立ちが僕より大人っぽいし、背も高いし、はたから見ればやっぱり僕の方が後輩に見えるかもしれない。強いて言うならフレッシュさだけは僕の方が少ない。我ながら虚しい。
「そういえば本読みました!」
「おお、どうだった?」
「面白かったです〜。俺は硬い文章も案外読めるんだって驚きました」
「きっと仁くんに合ってたんだね」
自分の好きなものを楽しんでくれるのは嬉しい。自然と笑ってしまう。
すると仁くんはポッと頬を染め、慌てて顔をそらした。
「そうですね……! またお願いします」
「うん」
自分に合う本を見つけられて嬉しいんだろうな。笑顔以外の表情も見ることができて、可愛いって思う。
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