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聞こえぬ足音10
「あっ、それから勉強もいいですか……? 先生に聞きづらいところがあって」
「うん。もちろん」
ゴミ捨て場に到着したのでゴミ袋を中に置く。そして身を翻した。
仁くんは勉強熱心ですごいな。僕が一年の時、最初からこうだったろうか。
……やることがなかったから、勉強はしていた、かな。でも仁くんは僕と状況が全然違う。
「そうだ。あの、連絡先いいですか……? 空いた時間の調整しやすいでしょうし……」
「大丈夫だよ」
不安そうな顔がパッと明るくなる。
断るわけないのに、可愛いなぁ。
お互いスマホを取り出して連絡先を交換した。数少ないリストの中に『じん』と言う名前が追加される。
仁くんははスマホ画面を見つめて、顔を綻ばせている。抑えきれないといった様子。
「嬉しいです。亜樹先輩の名前がある」
「僕も嬉しいよ」
「ほんとですか!」
「うん」
仁くんの笑顔はさらに広がる。
うん。やっぱり犬って感じ。大型犬。ふりふり尻尾を振って、いつも付いてきて、撫でるとすごく喜んで……みたいな。
そう見えることが可愛いと思う一因かもしれない。
校舎の陰から出て、校庭が見えてくる。
「あっ、そろそろ始まりそう。じゃあ、ありがとうございました!」
「うんっ……! ごめん、ありがとう!」
「はーい!!」
僕のせいで休憩時間が潰れたのに嫌な顔ひとつしない。仁くんは軽やかに走り去って行った。
サッカー部の面々に混じるところを見届けてから、僕は昇降口に戻る。
「亜樹」
「あっ、颯太だ」
すると下駄箱のところに颯太が立っていた。
わざわざ僕の荷物を運んでここまで来てくれたらしい。
胸のあたりがきゅうんってなる。
「ゴミ捨てお疲れ」
「ありがとう」
欲求のまま颯太の胸に体を寄せる。頬をすりすりと擦りつけた。爽やかな香りが心地いい。
「あはは、可愛い」
「颯太、好き……」
「誰か見てるかもよ?」
「……いじわる」
頭をグリッと当てれば颯太はふっと笑う。
体のどこかがじわっと熱くなった。
「俺も大好きだよ」
「んー……」
「ほんと可愛いな」
「ね……慰めて」
「……、うん。嫌なこといっぱいあったもんね」
颯太がぎゅっと抱きしめてくれる。
「優しくして……」
「うんと優しくする」
僕も背中に腕を回す。
そのあと、僕と颯太は一緒に僕の家へ帰った。
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