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聞こえぬ足音11

衣擦れの音が部屋に響く。 ご飯を食べていない。風呂も入っていない。でも、止まらなかったんだ。 「んっ……あっ……」 家へ帰るなりすぐ始まって、颯太はじっくりゆっくり僕を攻めていた。指は四本。もう十分すぎるくらいほぐれている。 優しくすると言ったくせに、やっぱりいじわる。 「そう、たぁ……」 「うん、亜樹。可愛いね」 腕を伸ばすと颯太はそれを背中に回させる。それから僕の口にキスを落とした。 甘い誘惑に僕は勝てない。 自ら腕の力を強めて、積極的に舌を絡めていく。指はまだ中で動いている。 「んぅ、ンッ」 「亜樹……」 「ん、そう……ンゥ」 気持ちよくて何も考えられないくらい、溶けてゆく。 ううん、違う。その方向に自分を持っていく。 怖いから。不安だから。 誰がやってるかわからない。目の前が閉じていく感覚。それって、似ていて。 もしかしたらバチがあたったのかもしれないって。目をそらして、騙して、誤魔化して。そんな最低な僕が、悪いのかもしれない。 すごく、不安になる。 「亜樹、大丈夫だよ」 「颯太……」 ふわっと頭を撫でられる。目の前が、颯太で埋まる。 四本の指が引き抜かれて、後孔に颯太のがあてがわれた。 ……結局は、優しいんだ。 ちくっと胸が痛む。 「挿れるね」 「うん」 ズッと質量が入り込んでくる。すると急に僕の中は喜んで、早く中へと収縮した。 すっかり颯太に抱かれる体だ。 颯太の体温は熱くて、心地よい。近づく体は、一つに融けあいそうな熱は、安心する。 「ひっん……あっ」 「全部挿入ったね」 「んっ……動いて……」 「……っ、正直な亜樹」 「ひぁんっ」 ぱちゅんとひと突き。じわって快感が広がる。 颯太が動きづらくなることも構わず、僕は強く強く抱きついた。 「亜樹、好きだよ」 「うん……僕も、アッあんっ、ひぅっ」 ごめんなさい。颯太。 颯太が好きだから、目をそらしてしまう。颯太が好きだから、誤魔化してしまう。 でもこれしか、ないんだ。 だから熱に浸らせて──

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