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聞こえぬ足音12

物を隠された日から、ある程度平和に時間が過ぎていた。変わらず画鋲も机の中も入っていたり、入っていなかったりする。画鋲もそうなったのは、労力を減らすためか、揺さぶりをかけるためかはわからない。 物はロッカーも机も空にするようにしたから特に起こらなくなった。流石に授業間に仕掛けるのは無理みたいだ。 「あー……疲れた」 「颯太寝てたくせに」 「ちょっとだよ、ちょっと」 帰りのショートが終わって、颯太はだら〜っと椅子に座る。 ちなみに今日は画鋲なしの机あり。生ゴミが入っていた。でもそれ以外は何もなく、特にダメージはない。 「あ、颯太。これからさ……」 「ああっ、亜樹、ごめん!」 「え?」 仁くんって後輩に勉強教えることになったから、一緒に帰れないんだ。それか、もしよければ、待っていてくれる……? と続けることはできなかった。 颯太がパンッと音を立てて手を合わせた。 「久志さんが手伝ってくれって、急いで帰んなきゃなんだった。だから一緒に帰れない」 「そうなんだね」 「本当にごめんね、亜樹」 「ううん、平気だよ」 颯太はぎゅうっと僕を抱きしめてくる。まだ教室には多くの生徒が残っているからヒューなんて声が聞こえてきた。 恥ずかしい。悲しさより断然、羞恥。 颯太の背中をぽんぽんってしてから、体を離す。唇を尖らせて恋人を見つめる。 「恥ずかしいよ、もう……」 「俺が抱きしめたかった」 「……もう」 「怒んないで」 颯太は僕の頭をよしよし撫でる。その手が離れて、自然と淋しくなった。 一緒に帰れない可能性は最初から頭にあったし、覚悟もして登校したし。でもやっぱり颯太と離れる瞬間はやっぱり、淋しい。 「じゃあ、また明日ね」 「うん。ばいばい」 でもお互い用事があるから、引き止めるわけにはいかない。 僕らは手を振って別れた。

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