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聞こえぬ足音13

颯太が帰ったあとにさっと荷物をまとめて僕も教室を出た。図書室の前まで行くと、仁くんがその近くに立っていた。真面目な顔つきで本を読んでいる。 普段見るのは笑顔ばかりだから、ぐっと大人っぽく見えた。可愛いよりかっこいい、かな。 「あっ、亜樹先輩!」 だけど僕に気づいた瞬間、ぶわっと笑顔を広げた。 「待たせてごめんね」 「いえ、全然待ってないんで!」 二人して図書室に入る。 自習スペースになっている奥へ行かず、入ってすぐ右にそれる。そこは上履きを脱いで過ごすスペースだ。ソファとテーブルが設置されていて、くつろいで本が読めるようになっている。 ここでなら自習している人の邪魔にならない。 「なんの教科?」 「えっと、国語です」 「国語ならわかると思う」 「よかった」 仁くんと隣り合ってソファに座り、僕は筆記用具、仁くんは教科書とノートを出す。 「この部分なんですけど……」 「あー懐かしい」 「やるの同じですもんね。それで授業ではこう説明されて、でも納得できなくて……」 目の前には僕が二年前に習った論説文。 仁くんは教科書とノートを指で示す。確かにその部分は教え方によって難しい内容となってしまう文だ。 「ここはね、前のページの……ほら、ここに……」 仁くんの疑問を僕も抱いていた。でも最初の方って質問しにくいから、理解していないままでも無理はない。 僕は教科書を使いつつ、仁くんに説明していった。人に教えるのなんて初めてだから心配だった。でも仁くんは細かく反応してくれて、わからなければ重ねて問うてくれた。 いい生徒だなって感じる。 いくつか問われて、返して、少し話し合ったりもして。 気づけば一時間ほど経っていた。 「はい……。うん、大丈夫です!」 「よかった」 「ありがとうございます。教え方めちゃくちゃわかりやすかったです」 仁くんはすっかり興奮して、それはもう輝いた笑顔だ。そしてぎゅっと僕の手を握った。 「仁くんこそこんな色々質問できてすごいよ」 「でも理解できてないってことじゃないですか」 「ううん。自分がわかっていないことをわからない人も多いから、仁くんは立派だと思う。意欲があるのもそう」 「亜樹先輩……」 仁くんは目を大きく開けて、それから細める。手を握る力が強まって、そのまま手が口元に近づいていく。 …………ん?

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