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聞こえぬ足音14

一瞬感じたかもしれない違和感はすぐに打ち消される。 仁くんは感謝を捧げるように僕の手を額の方に持っていった。 「ありがとうございます。嬉しいです」 「大袈裟だよ〜」 「本心ですっ」 ちょっとムッとした顔をする仁くんに笑ってしまう。 身振りが大きいから何するかわかんないな。やっぱり面白くて、可愛い後輩だ。 「あっ、そうだ。ついでに本もいいですか?」 「うん。わかった」 テキパキ机を片付けて、二人ともリュックを背負う。 また前と同じ棚のところへ行った。そこで二人同時に見上げてしまう。それに気づいて、今度は二人同時にお互いを見た。 「……ふふ、身構えちゃったね」 「だって亜樹先輩に傷ついて欲しくないですもん」 「ありがとう。でも今日は平気そう」 「ですね」 見たところおかしなところはない。それに今日はお互い注意しているし平気だろう。 僕は事前に決めておいた本を一冊取り出す。 「今日はこれ」 「ありがとうございます」 一回でやめずにこうして続けてくれるのは嬉しい。単に気に入られようとしたわけじゃないんだ。 本の話をできる相手はあまりいないし、ましてや好みまで合う人なんてなかなかいないから、楽しいな。 「そうだ。亜樹先輩」 「んー?」 「勉強のこと、誰にも言わないでください。恥ずいんで」 「恥ずかしくないと思うよ?」 図書室の中で、更に声を潜めて、口を少し耳に近づけて。 勉強意欲があるのはいいことだと思うけれど。でも同級生から見れば、ガリ勉だのなんだの思われちゃうのかもしれない。 「恥ずいですよ〜。だからしーっです」 「しー?」 「そう。しーっ」 「わかった。しーっね」 仁くんが人差し指を唇に当てて笑む。僕は思わず笑ってしまう。そして仁くんの真似をして唇に指を当ててみた。 すると仁くんはすごく幸せそうに笑った。

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