504 / 961
顕現2
溜め息を吐き出して、理科講義室を出る。授業ってなんか知らないけど、とにかく終わる頃には疲れる。
帰りは一人だ。同じ教室に戻るのだからわざわざ待ち合わせはしない。
今回ばかりは都合がいい。ひと気のない近くのトイレに入る。個室に入り、しっかり鍵を閉める。そしてそろそろと手紙を取り出した。
白い紙。四つ折りにされてピンクのシールで止めてある。
一見したら女の子のものみたいだ。
ぺりっとシールを剥がし、意を決して中を見た。
「…………っ……」
絶句。
というか、なんというか。
中身は実にシンプルで豪快で、とても、わかりやすい。書いてあったのはひと言。
『間宮颯太と別れろ!!』
だった。
力強い筆文字。
いっそ潔くてショックを受けるより呆気にとられてしまう。まあこれで犯人の狙いはわかった。ただこれが目的なら、もう少しわかりやすく嫌がらせをすればよかったと思う。何をされたって颯太と別れるわけはないけど。
手紙を元のように畳んで筆箱にしまう。そしてトイレから出て、教室に向かう。
昼休みに入ってがやがや騒がしい校内。喧騒に揉まれて、僕は教室へ辿り着いた。
後ろのドアの前に来て、ふと顔を上げて、颯太が視界に入って。
ぐっと胸が締め付けられた。
ああ、別れたくない。絶対いや。
決して別れるなんて運命は訪れない。そうわかっているのに、やっぱり僕は弱いみたいだ。
「あっ、亜樹。おかえり」
「颯太」
パタパタ颯太に近づいていく。みんな昼休みだからがやがやしているし、抱きついてしまおうか。
そう思ってふと恋人を見る。手には体育着。
「先に着替えてからご飯にしよ」
「そっか。球技大会」
「うん」
五月中旬の球技大会に向けて、最近の体育はそれぞれの種目の練習になっている。
教材を机に置いて、僕も体育着を取り出そうとする。リュックの中を見る。
入っていない。
そういえば授業前に机の上に置いたはずだ。しかしもちろんなくなっている。
ああ、とても嫌な予感。
胸の締め付けが再開される。
嫌だ、嫌だと思いつつ、まずはロッカーを見た。
ともだちにシェアしよう!