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顕現4

放課後。 一段ずつ階段を下りていく。図書室の扉が視界に入る。 「仁くん」 「亜樹先輩、こんにちは!」 仁くんは読んでいた本を閉じてにぱっと笑顔を咲かせる。 勉強会は仁くんに頼まれる度にやっている。今のところ国語か英語くらいだからやっていけている。 ちなみに颯太は今コンビニだ。買うものがあるらしい。ちょうどいいねと後で落ち合うことになった。 二人で図書室に入って、ソファのところへ。もはや定位置。 「ごめんなさい。亜樹先輩の時間とって……」 「ううん。僕の補強にもなるからありがたいよ」 「優しいですね、やっぱり」 教材を取る手を止めて、仁くんがふっと微笑んだ。 ドキッと、してしまう。 別にこれはときめいたわけではなくて、単に驚いたというか。普段の可愛らしい笑みではなく、大人っぽいものだったから。しかもすごく自然。 「今日は数学お願いします」 「あっ……え、数学。大丈夫かな……」 仁くんが僕も使っていた問題集を出す。 すごく懐かしい。だからって難しくないわけではないけど。 「この問題で……」 「うん」 幸い仁くんの指定した数問は僕にもわかる証明関係のものだった。証明なら結構得意だ。 仁くんも無事納得してくれて勉強会は終わり。 「ありがとうございました」 「どういたしまして。またね」 「はい! また!」 この後用があるという仁くんと図書室前で別れた。元気よく手を振る仁くんに微笑んでから廊下を歩き出す。 スマホを見ると颯太は校門で待っていてくれるらしい。 ついつい浮き足立ってしまう。一緒にいるのは慣れたもののはずなのに、いつまでたっても初々しい感情は消えない。 若干早歩きで下駄箱までたどり着く。 自分の靴に手を伸ばす。 「亜樹先輩!」 大声によって止められる。 「あれ? 仁くん」 仁くんが何やら血相変えて僕のもとまで駆けてくる。 「どうしたの?」 僕の声に反応せずに仁くんは手を伸ばす。僕の頭の上、の上に。 つられて上を向くと、なぜか仁くんはバケツに手を触れていた。 下駄箱の上にバケツ? なぜだろう。そして仁くんはなぜそれを下ろすのだろう。 「危ない……」 「え?」 ちゃぷん、と音がした。仁くんの持つバケツにはなみなみと水が注がれている。

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