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顕現5
「これ見てください」
仁くんが僕の目線の高さにバケツのふちを合わせる。そこから細いワイヤーが伸びていた。それを辿ると、僕の靴。
仁くんが来ていなかったら……とゾッとする。
仁くんはワイヤーを剥がすとバケツを床に置く。それからまた上に手を伸ばした。
「倒れやすいようにこれも挟んでありました」
角材、だろうか。仁くんの手には直方体の木。
「誰がこんなこと……」
「うん。危ないよね」
体育着といい今日は過激だ。手紙を入れたことで興奮しているのか、機嫌が悪いのか。なんなのか。
すると仁くんの視線が僕を射る。何か悪いことをしたかのように心臓が鳴った。
「亜樹先輩、慣れてますね。もしかして、」
「あっ……えっと、うーん……」
仁くんの鋭い視線が僕を見つめる。
「……うん、まあちょっとね」
「大丈夫なんですか。つか亜樹先輩にこんなことするの誰ですか。俺が懲らしめて、」
「あっ、待って。あのね、犯人はわかってないの。でも大丈夫。大丈夫だから」
「これを見てその言葉は信じられませんよ」
仁くんの瞳は真剣だし、本気で心配してくれているのはわかる。それは嬉しい。
でも迷惑はかけたくない。騒ぎにもしたくないし、心配もさせたくない。それにまだかっこいい先輩でいたい欲が、少し。
「そういえばなんで追いかけてきたの?」
仁くんは僕を恨めしそうに睨む。でも溜め息を吐いて口を開いてくれた。本当に優しい。
「消しゴム忘れてたんで」
「ごめん。ありがとう」
仁くんはぶっきらぼうに言って消しゴムを渡してきた。
罪悪感半分、可愛さ半分といったところ。
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