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顕現7
「ただいま」
「……ただいま」
「おー颯太、亜樹ちゃん、おかえり」
「ひゃっ」
リビングに入ると久志さんがいた。僕が横を通り過ぎるとさりげなくお尻を触られる。
するとぐいっと腕を引かれて颯太の胸の中に入った。
「久志さん」
「わりぃ、わりぃ。なーんか元気なさそうだったからよ」
久志さんは悪びれる様子もなくへらへら笑う。
というか鋭い……。
リビングのソファに颯太と二人で腰掛けると、久志さんは遅れてソファに座った。ついでに麦茶を出してくれる。
「ありがとうございます」
「ありがと」
「んで何に悩んでんの。二人して」
二人でちらっと視線を合わせて、颯太に視線で訴える。颯太は自身の頭に手を置いた。
「亜樹が嫌がらせされてるんだよねぇ」
「亜樹ちゃんに? 誰が?」
久志さんが前のめりになる。颯太は僕の腰を抱き寄せる。
「犯人は全くわからないし、目的も謎」
「巧妙なのか」
「んー、まあ、そうかも」
「どんなことされてんだ?」
「もの隠されたり、靴に画鋲とか、水の入ったバケツを設置したり、机の中に虫入れたり、色々」
「いつから?」
「二年の頃からと言えばそうだけど、毎日になったのは三年からだね」
「可愛い亜樹ちゃんにんなことを……」
颯太が告げると久志さんは僕を心配そうに見てくる。それから口元に手を当てた。
「目的がわかんないから何もできないんだよね」
「颯太を好きなやつの犯行じゃねーの?」
「は?」
「……っ」
やっぱり鋭い。鋭すぎる。
結局手紙の内容は言えていない。別に言えばいい。でも、どうしても、言いたくなかった。別れるという内容だからだろうか。気が進まないような、怖いような。
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