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顕現8
「颯太が好きで恋人の亜樹ちゃんが邪魔だとか」
「俺と別れさせることが目的なら、もっと最初からはっきりしてるでしょ。ただ嫌がらせするだけなら別れに繋がらないし」
「まぁーそれもそうか」
颯太の言うことも最もだ。
手紙のおかげで目的はわかったけど、やはりそれでわかるのは方法と目的の間に合理性がないこと。
もっと早くに目的をバラして嫌がらせを続けるとか、颯太に真っ向から愛を振りまくとか。そうしないのは何故だろう。そして今さらバラしてきたのも。
「おっと、もうこんな時間か。行かねぇと」
「ああ、そっか。行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃい」
「大人の出番あんならなんでも言えよ」
「ありがとうございます」
「ありがとー」
ひらひら手を振って久志さんはリビングを出ていく。
大人がいるっていうのは頼もしいことだ。久志さんだから話しても平気だと思えるし。
それはこうやってさりげなく軽い口調を挟んで僕らを解きほぐしてくれるからなんだろう。
温かさが心に、沁みる。
「どうにかして犯人捕まえられるかな」
「うん」
颯太の真剣な声も、沁みる。
「かなり早く学校行って見張っておくとかね」
「うん……」
一言一言こぼす度に颯太に近づく。腰と腰をくっつけて、鼻先を颯太の首に埋める。
一番安心するのはここだなぁ。
颯太は優しく頭を撫でて、キスをする。
「……どうして」
ああ、だめ。
あまりにも安心して、幸福で、気が緩む。
「どうしてこんなこと、されるのかな」
「亜樹……」
ほんの少し、語尾が震える。
こんな資格はないのに。
颯太に相手の目的すら伝えない僕が、颯太に一方的に心配かけて。
でも溜まった膿はどうしようもなく濃い。
僕はただ颯太が好きなだけ、なのに。
「大丈夫だよ。ちょっとずつ対策考えよう。一緒に。ね?」
「ん……うん……」
「いい子」
ああ、だめ、だめ。
でも、少し。少しだけ。
僕はしばらく颯太に包み込んでもらっていた。
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