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顕現11
背後から清水くんの重い声。何かと思って振り返る。
そこには二人の人物がいた。
一人は清水くん。もう一人は清水くんに手首を掴まれている男の子。俯いているから顔は見えない。
そして清水くんのもう片方の手には僕の筆箱が握られていた。なら忘れていなかったということだ。
……ではなくて。どういう状況だろうか。
「清水くん、その子……」
「お前今何しようとした」
颯太の問いを遮って清水くんが声を厳しくする。普段からは考えられないような声音だ。
「渡来のこと、突き落とそうとしたろ」
清水くんの怒声に、僕は息を飲む。颯太は視線を鋭くした。
突き落とす。
僕がいるのは、まだ階段の上の方。
もし落ちていたら、怪我は確実。最悪、骨折もありえたかもしれない。
嫌がらせの最終段階が、これ。
清水くんの言葉に、俯いている子は反応しない。
「おい、お前それがどういうことかわかってんのか」
「清水くん、ちょっと場所変えよう」
「……そうだな」
清水くんの瞳には怒りが燃え上がっていて、全く周りが見えていないみたいだ。まるで修学旅行の海での颯太みたい。
清水くんは深く深く深呼吸をした。
僕らはそれを見て階段を再び降り始める。清水くんはその子の腕を無理やり引いて、僕らについてきた。
そしてひと気のない廊下に面した空き教室に四人で入る。
教室に響くドアの閉まる音。
もう流石に逃げないだろうと、清水くんが手を離す。そして僕と颯太の横に並んだ。
三対一。
怖いだろう。
でもやっと嫌がらせの犯人がわかったんだ。相手に同情する気はない。
颯太への恋情は、誰にも咎める権利はないのだから。
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