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顕現12
「もう逃げ場はないんだから顔あげろよ」
清水くんの強い声音に、その子は渋々顔を上げた。
僕と同じかそれ以下の身長。可愛らしい顔に髪型。華奢だし、まるで女の子みたいだ。でも男三人を前に全く怯まず、僕を、睨みつけている。
「……あっ」
「どうしたの、亜樹?」
「前にぶつかった子だ……修学旅行の時に……」
「あー……なんかぶつかって転ばせちゃったんだっけ?」
「うん」
そう。前も全く同じことを思った。
それにこの強気な視線によく覚えがある。
「じゃあまさかそれで渡来をいじめたっていうのか?」
「違うよ!」
そんなことで……と呆れた空気を、その子は思い切り引き裂く。
声も可愛らしい。男にしては高めだ。
「じゃあなんで嫌がらせしたんだよ。お前だろ? 今までのこと」
「……颯太くんが好きだからだよ」
本人の口から発せられた目的。颯太と清水くんは目を見開く。
僕はもう知っていたからさして驚かない。だからこそ男の子の顔つきが変わったのがわかった。なんだか甘えるような、そんな空気をまとったというか。
「去年の冬にプリントを落としたボクを、颯太くんが手伝ってくれたんだ。その時から颯太くんのことが大好きなの」
「間宮、そうなのか?」
「……記憶あるような、ないような」
「颯太は優しいからそういうこといっぱいしてそうだね」
僕が本心を言うと、男の子は思いっきり睨みつけてきた。でもその視線も一瞬で消える。
そしてまた目をハートにして颯太を見つめる。
「それから颯太くんのことずっと考えてるの。好き。大好きだよ」
「……うん。気持ちは嬉しいけど、亜樹をいじめた上で言われても困るよ」
「この子よりボクの方が颯太くんを楽しませることができるよ」
清水くんの怒りに隠れていたけど、颯太も颯太でかなりご立腹だ。信じられないほど冷たい視線、声で、男の子に返した。
でも男の子は全く怯む様子がない。悪意に気づきながらも、 あえて攻めているみたいだ。
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