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顕現13

さすがに颯太は苦笑いしかできていない。僕もこの臆さない態度に驚きを隠せなかった。 でも、 「なんでお前、最初から間宮に迫らなかったんだよ」 そうなのだ。 ここまでの度胸があるなら、最初から颯太にアプローチすればいい。それで颯太に断られても絶対に諦めなさそうだし。 僕に何かしたら逆効果だし、いろいろ用意するのも労力が要る。メリットは皆無だ。 「え〜? だってこの子は颯太くんの恋人でしょ?」 「そうだけど……」 「だから邪魔者だもん。ボクにとって」 「邪魔だから……いじめるのか?」 「うん」 目の前の愛らしい笑顔。 なんだか悪寒がした。 明らかに辻褄が合わない。でもこの子は至極当然というように頷く。 その表情はやはり可愛い。口角を綺麗にあげて、颯太を見つめて。でもその顔はまるで陶器でできたもののようだ。 清水くんも颯太も固まってしまっている。空気が凍る。 「でもさ、わざとぶつかっても、指輪捨てても、本落としても、虫入れても、何してもめげないんだもん。イライラしちゃった」 「だから突き落とそうとしたのか?」 「うん」 語尾に音符や星がつきそうな口調だ。とても楽しそうに喋る姿からは、今の言葉が吐かれているとは思えない。 「……お前さ」 清水くんが男の子の前に出る。 「間違ってるよ。狂ってる」 肩に手を置かれて、男の子は顔を上げた。一瞬、その瞳の潤いが増した気がした。

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