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顕現14
「そんなことしたって間宮はお前を見ないってわからないのか?」
「……キミ、名前は?」
「は? え、清水蓮、だけど……」
「蓮くんって言うんだね!」
脈絡のない質問に清水くんはポロッと答えを放ってしまう。そして次に発せられた男の子の朗らかな声に、しまったと言う顔をする。
「ボクは姫野って言うの。気軽に姫ちゃんって呼んで!」
『姫野』という単語は妙にこの子にしっくりきた。男の名前ではないだろうから、苗字だろうけど、似合っている。姫ちゃんってのも。
すると男の子、姫野くんは清水くんの腕に抱きついた。急な展開に目が白黒してしまう。
今の今まで颯太くん大好き大好きと言っていたはずなのに。
「ボク、蓮くんの真剣な瞳に惚れちゃった」
「はぁ? 間宮はどうなったんだよ。つか離せ」
「ボクの目には蓮くんしか映ってないよ」
清水くんがもがくけど、姫野くんは離さない。
その瞳はもはや僕や颯太を映してはいなかった。とっくにいないものとされている。キラキラ光る目にはハートマークが見えそう。
それにしても華奢な体なのによく振り払われないな。清水くんは本当に引き剥がそうとしているように見える。
姫野くんは力が強いのだろうか。もしくは何かコツがあるとか?
不思議に思っていると颯太が僕の背に手を置く。
「亜樹、行こっか。清水くん、あとはよろしく」
「は!?」
颯太は爽やかに笑むと、僕の腕を引いて歩き出した。
いいのかと思ったけど、颯太に逆らう気も起きなかった。姫野くんは清水くんに酷いことをするわけでもなさそうだし。なんかもう睨まれるのも疲れたし。
解決という印も早く欲しいかもしれない。
「ちょっ! ふざけんな!」
「れーんくん!」
背後では清水くんの叫びと、姫野くんの弾んだ声。
とりあえず一件落着、みたいです。
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