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安穏2
「明日は球技大会だね! 蓮くんは何に出るの?」
「なんでもいいだろ」
姫野くんの甘えた言葉に清水くんは吐き捨てる。
ここまで嫌悪を表した清水くんは珍しい。そしてそれに全くめげない姫野くんはすごい。
こうやって可愛く迫られて落ちる男性は多いんだろうな。ただ清水くんは当てはまるようには見えない、かな。
そしてそんな姫野くんを見ていると、僕は下田さんを思い出す。裏表の激しい感じがそっくりだと思う。
あの人はすごく怖かった。姫野くんも、悪意を向けてきたときは怖かった。
「え〜、教えてよ」
「サッカーだよ」
「サッカーなんだね!」
「間宮!」
上目遣いで清水くんを見つめる姫野くんに、横から颯太が口を挟む。すると姫野くんはパッと顔を輝かせた。
あくまで僕と颯太はこの場にいないのに、清水くん関連の情報だけは拾うらしい。とても都合のいい空間だ。
清水くんは颯太を睨んだ。颯太はニッと笑う。
「ちなみにBチームね」
「試合見に行くね、蓮くん」
「来るなって。つか間宮はふざけんな」
颯太はケラケラ笑った。僕もついつい笑ってしまう。
清水くんには悪いけど、どこか微笑ましい。上手くあしらえない清水くんと、ただ可愛く明るい姫野くん。
姫野くんが清水くんに実害を与えるわけではないから、そこまで心配も起きないのかもしれない。
まあ、こんな感じで、前とは少し異なった日常を過ごしている。
前方の二人はなんだかんだ言い合いを続ける。僕は颯太と会話しながらお弁当を食べすすめていった。
そして早々に僕の弁当箱は空になる。
「颯太、本返してくるね」
「おっけ。俺は面白いからここにいる」
「うん」
カモフラージュ用の本を持って僕は教室を出た。
今日は教えて欲しいところがひとつだけだからって、仁くんとの勉強会は昼休みだ。
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